年端もいかない子を抱いて姿あらわしって馬鹿じゃないの、私。

自分の部屋にハリーを連れて戻った後、私は1人反省会&これからの未来を考えよう会を開催していた。ハリーは私のベッドの上ですやすや眠ってもらっているが、すぐ悪の組織不死鳥の騎士団からの追っ手が来てしまうだろう。早くこの場から逃げ出さないといけない。でも、どこへ?

死喰い人の本拠地?いやいや、我が君消滅により皆仲良くアズカバン送りは確定だ。闇祓いの皆さんが嬉々として私達を捕まえに来るに違いない。
自身の長い袖を捲って左腕を出す。黒々とした、誰の趣味だよってツッコミ入れたくなるような蛇と髑髏のマーク。私も死喰い人だからマークが入っているし、闇祓いにも覆面越しとはいえ何度も対面している。下手に動き回って見つかったらゲームオーバー。よって本拠地に行くのは無し。


「パック!」


杖でトントン、と旅行用スーツケースを2回叩く。すると、家中のありとあらゆる物がカタカタと震え、一斉にスーツケースの中へと飛び込んでいった。元々検知不可能拡大呪文がかけられていたスーツケースはブラックホールのように大中様々な物を吸い込む。もちろん私のベッドも。


「ハリィィィ!!」


スーツケースの中に吸われかけたハリーを急いで救出し、腕の中でぎゅっと抱きしめた。ハリーは未だ夢の中、私に可愛い寝顔を見せている。ぶ、無事で良かった。
ヒヤヒヤする事件を起こしながらも、何とか家中の家具や雑貨、全てをキャリーケースに移し終えた私は何も無い床に座り込んでこれからの計画を立てる事にした。
まずイギリスから出よう。ここに居たら私もハリーも狙われる。闇祓いや不死鳥の騎士団との命懸けの追いかけっこはハリーの教育によろしくないし、幼いハリーのトラウマになってしまうかもしれない。でも、生まれてこの方イギリスの外に出た事の無い私には行く宛が無かった。


「あああ、どこに逃げれば良いんだ!」


八つ当たりのように杖をぶん投げる。カランっと音を立てて転がった先を見ると。


「なんだあれ」


薄汚れた紫色の折りたたみ傘が杖の側に転がっていた。
見た事の無いものがいきなり現れて動揺を隠せない。

いや、これどう考えたって罠でしょ。

触った瞬間アズカバンの独房とか、魔法省の裁判所とか。絶対ろくな事が起きない。だから触るのはやめておけ、と脳内で警報が鳴る。どうやら敵に私の場所はバレているらしい。これは今すぐここから離れなければ。
ハリーを右腕で固定し、杖は右手へ。左手でキャリーケースを持つ。我ながら汚いやり方だとは思うが、「お前らの可愛いハリーちゃんが傷つけられたくなかったら指をくわえて見てろ」作戦だ。これから育てる子を人質にするなんて正気の沙汰とは思えないと自分でも分かっているが、許してハリー。私と君のハッピーライフの為の必要な犠牲なんだ。

よし、まずはどこか田舎にでも隠れるか。と扉を出ようとすると、コツンと何かが足に触れた。


「あ、忘れてた」


私が踏んだのは薄汚れた紫色の折りたたみ傘だった。瞬間、折りたたみ傘はグルグルと高速回転しながら空中に浮き、カッと目が眩むほどの眩い光を発した。

これ、やっぱりポートキーだったのね!!?
ぐるんっ、と私の視界が急回転する。ハリーと持ち物だけは落とさないようギュッと抱きしめた。
ああ、アズカバンと魔法省だけはやめてください!と心の中で叫びながら。
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