やっぱり元体育会系男子としては体育の時間というのは大切なもので。
いや体育か?体育かこれ?
マット運動も水泳もサッカーもやらない、箒に乗って空を飛び回るこの授業を体育と呼んで良いのか分からないがまあ便宜上体育の時間という事にしよう。兎に角俺はこの授業をとてもとても、喉から手が出るくらい楽しみにしていた。


「楽しみ過ぎて寝れなかったぜ俺」

「あら!女の子にとって睡眠は大切よ?今夜は良く眠れるお香でも焚きましょうか?」

「マジで!?女子力高いな!焚いて欲しい!」

「ほらそこ!手を構える!」

「はーい!」


マダム・フーチの指示を受けながらリリーとガールズ・トークに花を咲かせていると、どこからかじっとりとした熱視線を感じた(それは俺を通り越して隣のリリーに注がれていた)。またか、と思いながらリリーと顔を見合わせる。リリーはうんざりしたような表情を浮かべていた。犯人は分かっている。…奴だ。ホグワーツ特急内でリリーを口説いたハリーの親戚(多分)のジェームズ・ポッター。


「まーた熱心にこっち見てるぜ」

「授業の邪魔だからやめて欲しいわ!」

「ほんとほんと!困っちゃうわよねぇ」


シナを作って女子力高めに同意をしたがすぐに「ゾッとするからやめて」と止められてしまった。悲しい。
「何なのよ一体」と眉間に皺を寄せるリリーが不憫だ。ここは女友達として俺が一肌脱ぐべきだろう。さて、1発制裁を加えるのがベストだが、何か良い方法は無いだろうか…


「あ、みぃつけた」

「どうしたの?マリア、貴女すっごい悪い顔してるけど」

「なんでもないない!リリーは俺が守るからね!」

「へっ?ありがとう」


箒に跨りニヤリと笑う。幼稚園児の時主演男優賞として輝いた素晴らしい俺の演技力を特別に見せてやるぜ。





「あがれ!」というマダム・フーチのかけ声と共に空に浮く。足が宙ぶらりんになる感覚が怖くて震えたが、これは俺のパーペキスペシャル作戦への武者震いだろう。

数メートル上昇して上から生徒を見下ろす。特徴的なクシャ髪とイケメンは丁度俺から見て右斜め下にいた。よし、と小さく呟いて箒に力を込める。


「うわぁぁぁ箒が勝手にぃぃぃ!!!!」


ビュゥゥゥン!と風を肩で切る。そう、俺は魔力のアクセル全開で勢いよく2人へと突っ込んだのだ。「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ」とわざと大声をあげ周りの注目を集める。そのままポッターとブラックを巻き込んで『皆で地面とキスしようぜ大作戦』。完璧だ。完璧過ぎて涙出てきた。


「よ、避けてぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

「えっ、何!?うわぁぁぁ!!!!」

「こっち来んな馬鹿!!!!」


ポッターとブラックは左右に避けようとしたが、俺が箒から手を離しラリアットの体制で顎下にぐーをぶち込んだ為回避失敗。3人仲良く地面へ真っ逆さまにダイブ!
垂直に落ちて地面がどんどん近づいてくる光景がやけにスローモーションに見えて、「ああ、ちょっと難易度高かったかもしれない」と後悔した。

ぶつかるまで3、2…

ドスンッと大地を揺らし、地面にキスして着地した俺。打ち付けた身体がジンジン痛み、うっと痛みで涙が零れた。「いったたた…」と顔面にまみれた砂を払いながら辺りを見渡す。俺の両隣には地面とキスして屍と化した男が倒れていた。やったぜ、ミッション成功と静かにサムズアップする。


「ちょっと!!!何すんのさこの馬鹿!!!」

「あ、生きてたんだ」

「君のせいで全身痛いんだけど!」

「そうだ!ふざけんなこのじゃじゃ馬女!うげぇ最悪、地面とキスしちまった!!!」

「ぐっ…死ぬ…」


ガバッと勢いよく復活したポッターにヘッドロックをかけられた。息が上手く吸えずにヒュー…ヒュー…と虫の息になる俺。お前ら11歳だろ、もっと優しくしろよ!!

砂まみれの3人(うち俺は瀕死)に顔を真っ青にしたマダム・フーチが駆け寄ってきて、怪我は無いかとか気分は悪くないかとか、次から次へと質問してきた。それに丁寧に答えると、念の為3人で医務室に行くよう言い渡された。


「ミス・ハーレイ!飛行時は周りに気をつけるよう言ったでしょう!グリフィンドール5点減点です!」

「そんな殺生なぁ!」

「ああもう!君のせいで寮の点数が減っちゃったじゃないか!!」

「わ、悪い悪い。別の教科で取り返すからよ」

「はぁ…行くぞジェームズ、とお転婆女」

「マリア・ハーレイだ!!」

「分かったよハーレイ」


ブーブー文句を垂れる割には元気そうなポッターとグチグチねちっこく文句を言うブラックに両腕をガシッと抱え込まれ、メキシコで捕獲された宇宙人よろしくズルズルと引きずられて俺達は医務室へと向かった。





「ったく、調子に乗るから失敗するんだ。顔に怪我をしたらどうする」

「そうそう!女の子なんだから気をつけないと」

「というかお前、コンパートメントで会ったよな?ほら、エバンズと一緒に乗ってただろ。ジェームズは覚えてるか?」

「ああ!全然喋らないから大人しい子だと思ってたよ!まさかこんな元気一杯だとは思わなかった!アハハ!」

「確かに!口が無いのかと思ったぜ」

「うっせえ!どうせ俺が口を出したところで誰も意見は曲げないだろうし、口出しする意味が無いと思ったから黙ってたんだよ」

「まあ言われてみれば、僕はグリフィンドール以外考えた事無かったなー。グリフィンドール以外なんて有り得ないと思ってた」

「凄い自信だなオイ。色々大丈夫か?」

「残念だったなハーレイ、こいつはもう駄目だ」

「そ、そんな…!!ポッターは助からないんですか!?」

「俺にはどうする事もできない…」

「ポッターどんまい!」

「酷いじゃないか2人共!僕はこんなに健康優良児だというのに!」

「じゃあなんで俺達は医務室に向かってるんだ?」

「そりゃハーレイのせいでしょ!」

「そうだったそうだった!あははははは!!」

「まあ健康優良児だけれども一応見てもらうよ。サボってマダム・フーチに見つかったら大変だ」

「ところでおふたりさん、いつまで俺の事引きずるの…」





結果から言おう。俺とジェームズとシリウスはこの一件でめちゃくちゃ仲良くなった。
ウマが合ったというか、波長が合ったというか…
再び授業に戻った時、3人仲良く肩を組んで現れた俺達を見て他の生徒達は皆目を丸くして驚いていた。リリーも驚いていた。セブルスは苦虫を噛み潰したような顔だった。彼はお腹が痛かったのかもしれない。
どうやらジェームズにヘッドロック決められたシーンを見て仲直りは無理だと思われていたらしい(喧嘩をしていた訳では無いが)。
兎に角俺の『皆で地面とキスしようぜ大作戦』は成功したという訳だ。これでジェームズがリリーに迫っても双方の友人という大義名分を得て合法的に止められる。
リリーには「頭を強く打ったからあいつらがまともに見えるんじゃない?もう一度医務室に行ってきたら?」と心配されたが、すまんリリー。俺は男の友情を取りたい。
きっと彼らは俺にとって最高のホグワーツ生活を提供してくれるって、そんな予感がするんだ。
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