02

「あなたは…初めて見る顔ですね…」

暗闇の中、たった1人で棒立ちをしている少女。
暗さに目が慣れずに、彼女のシルエットしかぼんやりとしか見えなかった。

「こんな暗い場所でよく顔が見えるな」
「ああ、すみません。ライトをつけますね」

彼女が指をパチンと弾くと、ゆっくりと明るくなる会場。次第と彼女の顔も見え始める。
最強だからといって、凶悪な顔つきをしている訳でもなく、誰もが振り返るような美女…でもなかった。俺の国でもどこにでもいるような、普通の少女で、正直少し拍子抜けしてしまった。

「…あの、あまりジロジロ見ないで欲しいんですけど」
「すまん、初めて姿を見たからつい…」
「まぁ…あまり気にしてません。皆同じような反応しますから」

やはり他のファイターも似たような反応をしたようだ。コレで最強と聞かされていなかったら、剣を振るうのも躊躇ってしまうレベルだ。

「どうしますか、直ぐに闘いますか?それとも休憩がてら武器の手入れをしてからでもいいですよ。お茶菓子もあります」

恐らく、連戦続きで挑みに来る者が多いから配慮してくれているのだろうか。
しかし、これは舐められているようにも思える。ひと休みしても打ち倒せる自信と余裕を見せられているような、そんな感覚。頭にくるファイターも恐らくいるだろう。
ていうか茶菓子まで用意してるのか。

「いや、俺はスグに闘いたい」
「……そうですか」

彼女は一瞬悲しそうな顔をして、俯いた。
最強の名を持っているのに、闘うことが好きではないのだろうか。
だったら何故ここにいる?何故、彼女は強いんだ…?

「では、始めましょうか…」

試合時間を確認する為か、懐中時計を開き、俺に気づかれないようにため息を小さくついていた。
そんなに時間が無いのだろうか…。でもそんな奴が茶菓子を出すか…?

「お手柔らかに、お願いします」

そう告げた瞬間、一気に雰囲気が変わった。
まるで飼い慣らされた犬が野生のオオカミになるかのような、そんな気迫に押されそうになる。

「手加減するほど、甘くない」

こちらも負けじと集中して剣を構える。
一瞬の隙も負けに直結しかねない。油断するな。

一気に決着をつけたいのか、スマッシュ攻撃の力を溜めてゆっくりとこちらへ近づいてくる。
こちらの間合いに入った瞬間に攻撃しようと、体勢を整えたその刹那

「ぐっ…!」

あまりにも早すぎる攻撃に対処出来ずに、スマッシュ攻撃が直撃し、空中へ吹っ飛ばされる。
更に通常なら相手を空中へ飛ばしてからジャンプして追撃をするが、まるで飛んでくる場所が分かっていたかのように素早く移動し、またもスマッシュ攻撃の追撃。
地面に激しく叩き落とされるかと思いきや、ちょうど落下先にあった爆弾の入った箱に直撃して爆発に巻き込まれた。今日はついてないな…。

「…っくそ…」

起き上がるのと同時に、足を引っ掛けられて転ばされ、ラッシュ攻撃をくらう。

彼女の一挙手一投足に全く無駄がなく、反撃する暇さえも与えられない。
どうすれば…!

「お願い……」

「…?(なんだ…?)」

ラッシュ攻撃の後に地べたに這い蹲る俺の傍に立つ彼女は、震える声で小さく呟いた。

「助けて…」

****

結局、あの後は俺が為す術なく呆気なく倒されて終わった。
最強の夢子の前では手も足も出なかった。
…というより、出す攻撃を先読みされて、手の出しようがなかったような、妙な感覚だった。
まるであれは…

「シュルクみたいにちょっと先の未来が見えてるんじゃない?」

夢子と闘ったことのあるリンクにも話を聞いてみたが、やはり同じ感覚になっていたらしい。
だが、それにしても動きが早すぎると思う。未来が見えているからと言って、自分の攻撃が必中とは限らないので動く側にもリスクが付きまとう筈だ。
なのに、あの速度で必中など、かなりの修練が必要になる。
だが……

「なんかなぁ、最強って言われてる割には技そのものがまだ荒削りな部分がある気がするんだよな…」
「俺もそう思う」

確かに彼女は強いが、技自体に長年の実戦経験があまり感じられないのも妙だ。
的確な箇所に、的確な力を加えて、最小限の力で闘っている。勘が凄く鋭くて、体力の温存させる闘い方なのだろうか。
それに、とにかく闘争心がまるでないように思えた。必要以上にダメージも与えずに、決着を早く決めるために動いているようなワザの出し方。
考えれば考えるほど謎ばかりが生まれる。

「(それに……あの時の言葉…)」

助けて。と、彼女は言っていた気がした。
どういう意味かは分からないが、とにかく悲しみだけが伝わって、今でもあの声が忘れられない。

夢子は、あの暗闇の世界で何を思って過ごしているんだろうか…。

もう一度夢子に合えば、なにか分かるかもしれない。

救い方も分からないが、救いを求めていた彼女を助けたい。
俺は次のトーナメントがいつ開催されるのかを確認しに向かった。

兎に角、鍵を手に入れなければ。