03

「青髪の人、強かったなぁ…」

久しぶりに挑戦者と闘ったせいか、かなり腕がなまっていたこともあるが、彼の剣術はかなりセンスがあって、力もシンプルに強かったから苦戦した。

「もうちょっとトレーニングしないとね…」

正直トレーニング室は他のファイターが使ってる共有スペースだからあまり行きたくないんだけど、仕方ないか。

しばらく休憩をした後、殆どファイターの居ない深夜に私はトレーニング室へと足を運んだ。

「…あ」
「…アンタは…」

例の青髪さんだ。
闘いに集中しててあんまり顔を見てなかったけど結構イケメンだなこの人。
人のこと言える立場じゃないけど、こんな時間になんでトレーニングしてるんだろう…。

「部屋からずっと出て来ないと噂には聞いていたが、トレーニング室には来るんだな」
「また妙な噂がたっていますね。ええ、一応回数は少ないですが外には出ますよ」
「そうか…」

彼は素振りしていた剣をゆっくり下ろして、私の方に向き合う。少しドギマギしてしまい、視線を逸らすと、逞しく鍛えられた腕にじんわりと汗をかいているのが見えた。

「また妙な噂がってさっき言ってたが、度々話題にされるのか?」
「ええ、不本意ですが私自身の情報が少ないので、推察などで根も葉もないことを言われてしまうんでしょうね」

そんなことはあの時からずっと慣れっこだ。
ファイター達も一部を除いて悪気があって言っている訳じゃないだろうし。

「…でも、殆どのファイターはあんたのこと気にかけてたぞ。沢山会って話してみたい言ってたヤツも何人かいたな」
「そうなんですね…でも私は1人が好きなので…」
「そんなやつが闘いの前に茶菓子まで用意してファイターをもてなすか?」

靴紐を結っていた手がピタリと止まる。
未だに開封されていない紅茶とお菓子達の棚を何度も掃除してはため息をついたことを思い出した。

「あれは特に深い意味はありません」
「…そうか」

分かっている。自分はラスボスで、呑気に紅茶を飲む相手ではないことくらいは。
でも、扉が開くたびに今度こそは、と淡い希望を持ってしまうのはいけないことだろうか。

「なら、今度茶を飲みに行く。勿論、闘う前に」
「え…」

私に会う目的が闘うことよりもお茶になったことに拍子抜けしてしまい、思わず彼の方へ顔を見上げた。
からかっている訳でもなく、その表情はあまりにも真剣な眼差しだったからなんだか急に可笑しくなってしまった。

「あははっ!ええ、歓迎しますよ。待ってます」
「今度闘う時は勝つからな。覚悟しろ」

トーナメントで鍵を拾うのも一苦労するのに、そんな約束をしてくれた人は初めてだ。正直、嬉しい。
そういえば名前をまだ聞いていなかったな…。

「あなた、名前は?私は夢子」
「アイクだ。よろしくたのむ」

差し出された豆だらけの右手を、綺麗なままの手でそっと握り返した。

この世界に来てから、久しぶりにできた友達だ。
今度こそ、大切にしよう。