Story
喉から手が出るほどな少女と幼馴染
「それ、欲しいなァ」
僕の幼馴染は、どうしても欲しいものがあると、文字通り喉から手を出して強請る。喉から手が出るほど。実にその通りに、ずるり、と一本。唾液塗れになって、その喉奥からヒトの腕が出てくる。
あれがほしい、それがほしい、これがほしい。欲しいものができる度、僕の幼馴染は喉から手を出して、周囲からいろんなものを手に入れていった。もちろん、僕のものも手に入れられた(奪われた)。
――だから僕は、この状況をどうしようか、どうするべきか、迷っている。
「カズくんのこと、欲しいなァ」
彼女は僕の名前を言った。そして好きなのだと、だから欲しいのだと、言った。喉から唾液塗れの手を吐き出しながら、とろけそうな笑みを浮かべ、僕を欲しがった。
…まぁ、いいんだけどね。喉から手が出るほど欲しいなら、僕をあげても。貰われてもいいんだけどね、別に。僕も彼女のことは嫌いじゃないし、むしろ好意的に思っているし。…あー、でも。
「僕は、僕をあげるより、きみが欲しいんだけどな」
そう呟けば、一瞬の沈黙の後、欲しがりな幼馴染の顔がボッと逆上せたように赤くなった。欲しがりで欲しがりで、化け物のように口から手を出してしまうような彼女は、どうやら欲しがられることに慣れていなかったようだ。
僕は彼女の初めて見る表情に、そして普段は血色の悪い手まで薄桃に染まっていることに、そっと、口角を上げた。
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