クラスメイトAの証言


 最近、私のクラスはとても騒ついている。

 このクラスでは話題になっている生徒が二人いる。そのうちの一人は、中学の頃から先輩後輩関係なく女子の視線を集めていた男子生徒だ。いつもしっかりとセットされているリーゼント、そんな怖い印象を与える頭髪をしていながらも吸い込まれそうなほど青くつぶらな瞳、おそらく私なんかよりも長い睫毛、少しだけ日本人離れした整った目鼻立ち。通り過ぎると一度は振り返ってしまうといっても過言ではなかった。そんな彼の名前は東方仗助。いつも色んな女子から声をかけられており、皆「仗助くん」と親しげに呼んでいる。私は中学が一緒でクラスも一年と三年で同じだったのだが、これといった接点はなかった。だが彼が側を通るたび、女子たちが色めきあうことは知っている。彼はその声をもう聞き慣れてしまったと言わんばかりだったが、決して無下にするようでもなかった。告白で呼び出されたら相手を傷つけない配慮をしながら断りを入れるし、ラブレターを貰ったらしっかりとその手紙を読んだ上で相手を出来るだけ尊重する言葉を選びながら断りを入れるような男だった。しかしながら数多くの女子からの愛の告白や好意を抱かれながらも、彼がただの一度もそれらに応えることはなかった。彼はあんな風に見えて結構純愛派で一途な人らしい。自分が好きになった人としか付き合わないというスタンスをこれまで貫いてきたのだ。

 そしてもう一人が虹村百々子ちゃん。この春からここ杜王町にやってきたという可愛らしい女の子だ。物腰が柔らかで、初対面でも何故か心を曝け出しても良いと思えてしまうようなそんな女の子だった。優しくて穏やかで、でもちょっぴり緊張しいな子である。カフェでアルバイトをしているらしく、クラスの男子たちがそこに行ってみないか、と話しているのを聞いたことがある。彼女もまた男子たちから好感を持たれやすいタイプであった。実は別のクラスの虹村億泰という超絶強面不良と双子だということで、騒然としていたが最近クラスがざわついているのはそのせいではない。

 あの純愛派の東方仗助が、虹村百々子ちゃんと矢鱈と仲が良いからである。そもそも東方仗助の方から女子に声をかけること自体が珍しい。だが私はそれは彼女が虹村億泰の双子の妹であるからだと推察していた。しかし東方仗助のファンの筆頭である女子グループが言っているのを小耳に挟んだ。

『なんかさ、最近マジで仗助くん、虹村にばっか話しかけてるよね?あからさまじゃない?』
『お昼を一緒に食べに行ったあとからよね。仗助くん、マジであんなのが好きなの?』
『アタシらの方がずっと前から仗助くんのこと知ってるのに』

 なんと東方仗助の方から積極的に百々子ちゃんに話しかけているというのだ。それは何となく気が付いていたが、言われてみるとたしかにあの二人一緒にお昼を食べに行っていたことがあった。東方仗助はいつも虹村億泰や広瀬康一くんとお昼を食べることが多かったが、あの時は虹村億泰が休みだったと聞いている。だからたまたまだと思っていたのだが、あの日の東方仗助は確かに浮ついていた。テンションがいやに高く、クラス中がその理由をあの昼休みに確信したくらいだ。あの後からなのだ。東方仗助が百々子ちゃんになにかと理由をつけて話すようになったのは。

 しかし百々子ちゃんの方は驚くほどその辺りが鈍くて、友達から東方仗助のことを尋ねられてもあまり彼の異変には気付いていない様子らしい。本当にびっくりするくらい勘が鈍いか、もしくは周りへの興味が薄すぎるのだろうか。
 もしかするとそういう態度が例の東方仗助ファンに反感を買っているのかもしれないが、正直彼女たちのヘイトは完全に僻みなので百々子ちゃんが気にすることではないと思う。このことで彼女たちが百々子ちゃんに何か因縁をつけるのはお門違いなのだから。

「ねえねえ」
「えっ!?」

 昼休みの終わり、もうすぐ予鈴が鳴って五時間目の授業の準備をしようかなと思っていた頃。私は急に声をかけられ、頭の中の整理をしていたために、思わず声を上げてしまう。声をかけてくれたのは、今私の頭の中を埋め尽くしていた虹村百々子ちゃんだ。驚くような声を出した私を見て「ごめんね、びっくりさせちゃって」と謝ってくれた。近くで見ると彼女も睫毛が長い。あと肌すべすべだ。色も白いなあ。同じ女子とは思えないほど整っていて、たしかにこれは羨ましいと思ってしまうのと同時に、本当に虹村億泰と双子なのか、と疑ってしまう。

「これ、落としたよ」

 そう言って百々子ちゃんはいつの間にか落としていたらしい私のシャーペンを拾ってくれていた。にこやかに机の上に置いてくれる彼女に「ありがとう」とお礼をすると、更ににっこりと笑う百々子ちゃんが「そのシャーペン使いやすいよね」と話題を広げてくれた。

「うん、そうだね」

 お分かりの通り私はコミュ障である。百々子ちゃんが話題を広げをてくれたのにも関わらず、私はまるで早く会話を終わらせたい人かのような返事しかできない。実際話しかけてくれてとってもうれしいというのに。

「ほら、私も持ってるの!お揃いだね」

 百々子ちゃんはそう言って胸ポケットから一本のシャープペンシルを取り出した。たしかに私と同じ型のものだった。色こそは違うけれど、たったそれだけでお揃いだと言って笑いかけてくれる百々子ちゃんが今は女神のように感じられた。かわいい、本当にかわいい。これは東方仗助も惚れてしまうのも頷ける。

「よう、百々子」
「あ、仗助くん!」
「!?」

 まさかまさか私の頭を埋め尽くしていた人物パート2までやって来るとは。東方仗助は百々子ちゃんを呼び止めるなり、口角を緩ませまるで犬が飼い主を見つけて尻尾を振るかのように百々子ちゃんのもとまでやってくる。その姿はもはや大型犬だ。

「今日バイトか?」
「うん。そうだよ」
「じゃあ今日も帰り寄ろっかなー」
「ほんと!?仗助くん来てくれるのうれしい!」

 そんな会話をしている二人を私は見ていた。見てしまった。
 東方仗助の方は最初から百々子ちゃんと話せたうれしい、放課後の楽しみができてうれしいと言わんばかりの様子なのだ。どこからどう見たってこんな東方仗助は見たことがないし、彼が百々子ちゃんのことを好きなのは一目瞭然だった。
 私が驚いたのは百々子ちゃんの方である。もとから愛想も良くて愛らしいのが百々子ちゃんの特徴だが、東方仗助と話しているとき、ほんの僅かだが頬が赤くなっていた。百々子ちゃんも心の底からうれしいんだろうな、と思う。でも他の男子と話しているときに、彼女がこんなふうになることはない。だからこそ私は思う。

 この二人、もしかするとあとは時間の問題なのかもしれない。

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