山岸由花子と恋バナをする「うれしいわ、百々子さんの方から声をかけてくれるなんて」
夕方4時過ぎのカフェは人が疎らであった。由花子へうれしそうに笑って目の前に座る百々子に対してそう言った。二人はクラスは違うがそれなりに面識がある。以前由花子と康一がお茶していたのを、たまたま百々子が見かけたのだ。それもそのはず彼らが利用していたカフェは百々子が働いているカフェだったからだ。その時の縁から由花子は度々百々子を訪ねては、同じクラスである康一のことを色々と聞き出していた。
「でもごめんね、今日は康一くんのこと話せるようなことは何もなくて…」
「ううん、いいのよ。私こうしてお友達とお茶できること自体が嬉しいんだもの」
由花子がそう言ってくれたので百々子は思わず頬を緩ませる。二人はケーキセットを注文し、商品が到着するまで話を繰り広げていた。
「そういえばさっきも康一くんを見てたの?」
百々子の発言に由花子は思い出す。康一を見ていた先、確かにそこに百々子もいたのだ。なのにそれが瞬間移動してきたかのように、いつの間にか由花子に話しかけていた。
「あなたそういえばさっきまで康一くんたちと同じところにいなかった?東方仗助やあなたのお兄さんもいた気がするけど」
あともう一人よく知らない小柄な男の人もいたわ、と続ける由花子に百々子は「何言ってるの、由花子ちゃん」と戯けていた。
「私今日は放課後少し担任の先生と話してたから、康一くんとも仗助くんとも億兄とも一緒にいなかったよ」
その表情や言葉に嘘偽りは無いと判断した由花子は、もしかするとあの小柄な男もスタンド使いで彼の能力かもしれないという推測を立てこの話はこれ以上追及しないことにした。
その頃になると頼んでいたケーキセットが運ばれてくる。由花子はショートケーキ、百々子はフルーツタルト、そしてそれぞれに飲み物が添えられていた。それらを目をキラキラと輝かせて見つめる百々子は「いただきまーす」と無邪気に頬張った。
「ところで百々子さんは好きな人とかいないの?」
丁寧な一口サイズに切られたショートケーキを前に由花子が問う。百々子の方は口の端にタルトのシロップがつくのもお構いなしに、目一杯頬張っている。自身の質問を「おいし〜い」と返す百々子に由花子は少し眉を落とす。しかしそれも百々子の良さだと思って自身もショートケーキを頬張った。
「私は好きな人いないよ」
由花子が想像していたテンポより少し遅れて百々子が答えたので、思わず由花子は瞬きを繰り返してしまった。そして自分からその質問をしていたのだと思い出すと「気になる人もいないの?」と更に掘り下げる。
「うーん、こんな人がいいなっていうのはあるんだけど」
「ぜひ聞かせてほしいわ」
そう由花子に言われたので、百々子は恥じらいながら、先日承太郎に聞かれたときと同じことを述べたのだ。もちろん真面目な人間よりも少し悪いくらいな人の方がいいということも忘れずに、である。
それを聞いた由花子は確信した。
百々子が好きだと言っているタイプの人間は、そのまんま東方仗助のことだ、と。
だが本人がそもそも仗助のことだと認識していないし、仗助のことすらも兄の友達でクラスメイトの男子程度にしか思っていないのだ。百々子の方に仗助に対する特別な感情が無いのであれば、これは他者から指摘するのはどうだろうか、と康一と同じ思想になる。
だが由花子はそこにほんの少しだけヒントを与えることにした。
「でも案外そういう人が身近にいるから、そんなに具体的なタイプが出来上がっているのかも」
由花子のヒントに百々子は身近にねぇ、とストローを咥える。瞳を動かしてそんな人近くにいるかな、と考えているようだった。
さて彼女がいつ自分の好きな人のことを自覚するのか、由花子は康一以外の楽しみを見つけた気分だった。
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