岸辺露伴の逆襲 その2※ぬるく背後注意(いかがわしいことを彷彿させる表現がでてきます)
仗助はこの先の真実を知りたくない気持ちもあった。さっき自分でも言ったようにどう考えても露伴は、認めたくはないが勝ち組の人間だ。高校生になったばかりの自分と大人でお金も家も車も持っている露伴とを比べた時、どう考えてもみんな露伴を選ぶだろう。もちろん仗助自身もその選択をする。
だからこの行動も無意味なのかもしれない。だが、真実を突き止めなくてはならない気持ちもあった。
「家の外からじゃ全然何やってるか分かんねェな」
「オイ仗助、お前のスタンドでどっかぶっ壊して家の中入るぞ」
「ぶっ壊すだけなら俺のスタンドいらなくね?」
いいんだよとにかくここじゃ埒があかねえだろうが、といつもに増してキレている億泰に正直仗助は手をつけられないでいた。だが億泰の気持ちも分かる。確かに勝ち組の露伴だ。最初こそ勝ち目はないとすら考えていたが、だんだんと仗助も腹が立ってきたのだ。
こっそりと露伴邸に侵入した仗助と億泰は百々子たちがいる部屋を探す。その最中億泰はこう言った。
「こんなことしてっけど、百々子がそれでも幸せだっつンなら、俺はもう何もできねェよ」
「億泰…」
「百々子が幸せならな」
それは仗助も同じだった。もし本当に百々子が露伴のことが好きで幸せだというのなら、仗助たちはここで見たこともなかったことにして、仗助に至っては自分の気持ちに蓋をして、これまで通り百々子を見守るしかないのだ。
ちなみに仗助と億泰が侵入した時点で、露伴は何者かが侵入したと気付いている。
「オイ、億泰。この部屋じゃねえか?」
仗助はとある部屋の前で足を止める。それは前に露伴と一悶着あった時と同じ部屋だった。二人は扉を両方から挟み込むように立ち、ドアの向こうに聞き耳を立てる。
露伴は今二人がドアのすぐ向こうに来ていることを察知し、とあることを思いついた。
「百々子くん、早速だがいいかい?」
「あの、でも…本当に私なんかでいいのでしょうか?」
「もちろん。僕は君がいいんだ」
「でも…私、その…」
「何だい?ここまできて、怖気ついたとでも?」
「だってやっぱりこんなの、恥ずかしい…」
「ほう、何故だね」
ドアの向こうの仗助と億泰はこれは完全にクロだろうと踏んでいた。今まさに露伴が百々子とそういうことを致そうとしている場面に遭遇した、と二人は考えている。だが正直二人ともそれが分かったとしてどうすればいいか分からなかった。仗助は自分の好きな子が他の男と今まさに致そうとしているこの瞬間、悔しさや悲しさはもちろん煮え切らない怒りを確かに孕んでいた。それは億泰も同じだった。可愛くてしょうがない妹が、何故露伴に喰われようとしているのか。そして何故自分はそれを盗み聞きしてしまっているのか。形兆がいたら何と言うだろうか。億泰はまた兄の意見に頼ろうとしていた。
「だ、だって、私、こんなことするの…初めて、なんですッ」
「そりゃそうだろうね。君、純情そうだし」
君のそういうところに惹かれたんだがね、と更に続ける露伴に、百々子がもう逃れられないと覚悟を決めた時であった。
仗助と億泰はやはり納得できなかった。百々子が幸せならば、と一度は思ったが、どうしても相手が岸辺露伴であることが、彼らの良心を邪魔するのだ。特に仗助に至っては、何故露伴なのか、どうして俺じゃないんだ、という気持ちでいっぱいだった。
部屋のドアが思い切り蹴破られ、その破壊音と共にけたたましく叫ぶ声が聞こえた。
「やっぱ我慢できねぇ!てめえ!俺の妹に何してんだコルァ!」
「俺も同意だぜ、億泰!このまま見過ごすわけにはいかねえ!高校生相手に何盛ってんだこの変態漫画家野郎が!」
怒鳴り散らす二人は、先ほどの兄弟愛に満ちた感動的な台詞などなかったことになってしているようだった。今はただどうしてもこのドアの向こうにいる百々子が露伴に良いようにされてたまるか、という気持ちでいっぱいだった。
突然入ってきたこと自体に驚く百々子は、更にそれが自分の兄とクラスメイトの仗助であることに更に驚きを隠せずにいた。
「え?億兄!?それに仗助くんも?どうしたの、二人とも」
「やれやれ、これからって時に、よくも台無しにしてくれたもんだ」
「露伴てめえ!」
「百々子こっちに来い」
「勘違いするなよ。彼女には了解を得てるんだ」
「百々子が良くてもそういうのは保護者の了解も得るもんだろうがァ!」
億泰の発言に百々子は「そういうの?」と首を傾げる。億泰はこの百々子の純粋な顔につい言葉に詰まってしまう。それは仗助も同じことだった。そもそも"そういうこと"に果たして保護者の了解は必要なものだろうか。二人がいつもの通りにできないことを理解した露伴は、ここぞとばかりに口角を釣り上げてニヒルな顔をつくる。
「もしかして君たち、何か勘違いしていないない?」
「勘違い、だと…?」
「まさか僕と百々子くんがセックスでもしようとしていたかと思っていたんじゃないか?」
「なっ!ちょっと、えっ!?」
わざとにセックスという部分を強調した言い方をする露伴はこの状況が面白くて仕方がないという顔だった。打って変わって百々子は自分の想像を遥かに超えた内容を言われて赤面している。まさか今日ちゃんと面識を持った露伴とそんな関係性になるわけがないのに、と億泰と仗助に必死に瞳で訴えかける。
仗助と億泰は百々子の表情に本当に二人がそういうことをしようとしていたわけではないと知り、改めて早とちりをしてしまった自分たちに恥ずかしさが出てくる。そして百々子も露伴の言葉のせいで恥ずかしさが消えないため、高校一年生の彼らのそれぞれが気まずそうに佇む空間が出来上がってしまった。例えるなら家族や親戚と見ていたドラマで突然ラブシーンが始まったときのような、そんな感覚だ。
この沈黙を一番最初に破ったのは露伴自身だった。盛大なため息は全くもって面白くない、と言った感情が滲み出ている。
「そもそも僕が未成年の学生に手を出すわけないだろ?信用問題に関わる」
「んなの分かんねぇだろうがよ」
「僕は君たちみたいにガキじゃあないんだ。それにちょっと君たちを揶揄っただけだろ?」
「俺らが家にいんの分かっててやってたってのかよ」
「ああ、そうだ」
「性格悪」
「不法侵入しておいて何を言ってるんだ。自業自得だろ」
露伴はもう一度ため息をつく。同じくやりとりをしていた仗助もため息をついた。億泰は若干放心状態で突っ立っており、百々子は彼らの話を聞いてはいたものの、いまいちよく理解できていないようだった。
億泰は百々子を見ては「お前何しに来てんだよ」と珍しく真面目な尋ね方をした。そして百々子から露伴から依頼があって家に来たことを説明すると億泰は深いため息をついてその場にしゃがみ込んだ。
「別に百々子が選んだ奴なら否定はしねぇけどよォ」
「え?なんの話してるの?」
「露伴先生ってのはちょっとエグいっつーかよォ」
「おいそれどういう意味だ」
「エグいて」
「どういう意味かよく分からないけど、それより露伴先生、私は本当にこれを着ないといけないんですか?」
億泰の言っていることに半ば耳を傾けなかった百々子は手に持っていたものを再度見つめながら露伴に尋ねる。露伴は「ああ頼むよ」と今度は結構あっさりと答えた。それは、先ほど仗助と億泰が露伴たちがいかがわしいことをしようとしているんじゃないかと疑っていた元凶であった。曰く、これは露伴が考えている新しいキャラクターのイメージ衣装であるという。少し露出の多い全身タイツのようなものだったために、百々子は困っていたのだ。
それを知った億泰が兄として家族としてダメに決まってんだろ、と言おうとした矢先である。
「こんなの絶対ダメだろ」
先にそう言った人物がいた。億泰は思わずその人物を見る。その瞳が家族である自分と同じくらい真剣なもので、思わず億泰は見惚れてしまっていた。「なあ億泰」と言われたのでそこでようやく自分も「おう」と気の抜けた声を出す。
億泰はこの時、ようやく違和感を覚え始めた。
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