向日葵が満開に咲く頃 その1 吉良吉影が別人となってからもこの街には新たなスタンド使いが見つかった。吉良の父親が例の矢を用い、仗助たちへの刺客としてスタンド使いにさせているのだ。そんな中岸辺露伴が独自の調査で撮影していた写真の中に、別人になった吉良吉影がいることが分かった。一向が明日にでも吉良が成り代わった男・川尻浩作の息子である早人を訪ねようと計画を立てていることを、吉良の父親もようやく見つけた最愛の息子・吉良吉影(川尻浩作)にこの件を伝えに行った際である。吉良は自身を勘繰り、ある女性の殺害現場を捉えた証拠があると脅してきた早人をついに手にかけてしまう。明日には岸辺露伴から情報を聞きつけた承太郎たちも早人を尋ねると言っていたから、早人がいないとなると間違いなく家にやってくる。その時にこの惨状が見つかればもう終わりだ。
そんな絶体絶命のこの時、吉良の父親が持っていた矢が吉良の中に入り込んでいく。その後、何が起こったのか父親には分からなかったが、先ほどとは一変し余裕そうな表情になった息子からあることを頼まれ、状況が掴めないまま父親は再度矢を手に夜の杜王町に溶け込んだ。
♢♢♢
翌日、仗助たちは川尻浩作の姿をした吉良吉影を見つけ、仗助、億泰はその息子・早人とともに吉良吉影との決戦に至る。激闘の末、一度意識を失った億泰が覚醒したこと、仗助たちを承太郎たちが見つけたこと。全てが掛け合わさり、この杜王町で残忍な犯行を繰り返してきた殺人鬼・吉良吉影を追い詰めることができた。だが、彼はこの期に及んで尚まだ
とっておきを隠していた。
「ここで終われない。まだ、あの子がいる」
「こいつ、何言って…」
スタープラチナ ザ・ワールドで瀕死の状態になっている吉良吉影の呟きに、耳を傾けるのは承太郎だった。
「貴様らと話しているのを見かけた。だから次の標的にしたのだ」
「お前、何の話を…」
その時、偶然か必然か吉良吉影目掛けて救急車が飛び込んだ。タイヤに顔面を巻き込まれた吉良の最期は呆気なく事故死で片付けられてしまう。吉良が言っていた言葉の真意は分からないままとなってしまった。
承太郎はこの話を仗助らにも伝える。その際、承太郎は当時然程重要だと捉えていなかったとあることを思い出す。そしてそれを口にする前に億泰の言葉が皆を戦慄させた。
「俺、さっき夢見たっていったよなァ。夢の中で兄貴と話してたとき、最後になんか言ってたけど思い出せなかったんだよ」
「それがなんか関係あんのか?今は他に被害者がいるかもしれねえからそっちを…」
痛ましい傷ながらも仗助がそう言う。たしかに仗助の言葉は正しいが、億泰は言わずにはいられない理由があった。
「兄貴は最後に『早く百々子のもとへ行け。アイツは巻き込まねえって約束をしただろう』って、たしかに言ったんだよ」
億泰はそう言いながら顔を強張らせていた。承太郎は百々子が吉良と面識あることを話す。承太郎が百々子から話を聞いた時点で、既に吉良は別人になっていたためにあまり重要視していなかった事柄に、更に一同は凍りつく。吉良が言っていた"あの子"、そして"標的にした"というその対象は間違いなく百々子のことだったのだ。
露伴と康一は高校に向かうこととなった。そして承太郎は億泰とともに彼らの自宅へ向かう。仗助も億泰について行こうとしていたが、この傷では捜索はままならない。承太郎が一度病院で手当てをしてもらうよう言うも、「百々子が危ねえってときに、一人呑気に治療なんかしてられるかよ」と承太郎の意見を払いのけた。ここにいる全員が仗助の気持ちを知っている。だからこそそれ以上強く言える者はいなかった。ただ応急手当てだけでもしてもらうということで、近くの救急隊員のもとに一人向かう。気休め程度の手当てを終えた仗助は、億泰承太郎と行動を共にすることとなった。
♢♢♢
約一時間前―――。
百々子はいつもより早々と家を出た兄・億泰を他所に自身はいつも通りの時間に支度を済ませ、いつも通り登校する。この様子では仗助も既に登校してしまっているらしく、一人で朝の夏の匂いを感じながら歩いていたときであった。家からほんの数歩の場所である。
いつも通りの朝のはずなのに、百々子はそれ以上足を進めることができなくなった。
それは百々子の前に立っている人物のせいである。
彼が立ちはだかって邪魔になっているとかではない。
百々子にとって彼が、今、この杜王町にいることが、信じられないからだ。
だが、こんなこと有り得ないと自分でも分かってはいるのに、彼の名前を呼んでしまう。するとそれが当たり前のように、こちらを振り返り穏やかな表情を見せるので、堪らず現実として受け止めてしまった。
この時の百々子はそれほどに、孤独感を覚えていたのだ。
「形兄…っ!」
そんな孤独な彼女の前に現れたのは、死んだはずの虹村形兆だった。
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