虹村百々子と東方仗助は思い出す 感動的なところ悪いのだが、と空気を一変させたのは承太郎だった。
「百々子のスタンドについて詳しく聞いておきたい」
承太郎にそう言われ見つめられた百々子は、さっきまで笑っていた表情を硬くさせる。
「何故スタンドを使えることを言わなかった?」
そう尋ねられ百々子は少し間をつくった後、深呼吸をして話し始めた。
百々子がスタンドについて知ったのは形兆と億泰が父親を殺せるスタンド使いを探し始めて少し経ってからのことである。自身のいないところで二人が何かをしている、それを分かっていた百々子は、形兆にそのことを問いただした。しかしそのたびに形兆はしらばっくれたという。でも百々子がしつこく形兆に尋ねると、ようやく痺れを切らして自分たちが今していることを話してくれたらしい。
「マジかよ、兄貴から聞いてたのかよォ」
「聞いたというか、うん、誘導尋問みたいになっちゃったんだけど」
(あの形兆さんに誘導尋問…?)
(さすが虹村兄弟の妹だぜ)
康一と仗助の心の声はさておき、百々子は再び話し始める。
形兆から自身たちがしていることを聞いた百々子が、そのまま引き下がるわけがなかった。次に百々子は自分もその矢で射って、スタンド使いにしてくれ、という依頼をした。
「まさか兄貴が百々子に矢を使ってたとはなァ」
「私が毎日毎日お願いして、しつこかったから仕方なくって感じでね」
「マジかよ…」
「最後の最後まで嫌そうにしてたけどね」
だが形兆が折れたのは百々子が興味本位で言っているわけではないことを分かっていたからだった。
「現れたスタンドはフレイヤっていって、私が直接手で触れたものを消す能力だった。でもこのスタンドには条件があって、スタンドが発現する前の事象には使えないの」
「つまりお前の親父さんには使えなかったってことか?」
承太郎の質問に百々子は悲しそうに頷く。せっかく兄の反対を押し切り、死を覚悟をして手に入れたスタンドだったが、結局宝の持ち腐れとなってしまったのだ。
「そのことが分かって、形兄とある約束をしました」
「約束?」
「うん。私がスタンド使いであることを他言しない、そして絶対に人には使わないってことを約束しました」
「だから俺にも言わなかったのか」
「うん」
「でも、どうしてだろう?別に害になることはないと思うし、今回の仗助くんの傷を消すようなことができるのは、すごく便利だと思うんだけど」
康一の疑問はまさに百々子も抱いていたことだった。だが形兆は駄目の一点張りで理由も詳しく教えてくれることもなく、それ以降スタンドの話をしなくなったという。そのため、形兆たちが暗躍していることを知りながら、百々子は何も知らないという顔をして、生活をしてきたのだった。
「おそらく、百々子をスタンド使い同士の抗争に巻き込みたくなかったのが第一だろうが、もう一つ考えられる」
承太郎は百々子を見つめて、その考察を続けた。
「はっきり言って百々子のスタンドは強い。鍛錬を積めば俺のスタープラチナや仗助のクレイジー・ダイヤモンドにも勝るスタンドになる。なんせ触るだけで消せるんだからな」
下手すりゃあ人ごと消して国を乗っ取ることだって可能なわけだ、と規模の大きなことを言う承太郎に「そんなことできませんよ」と百々子は言うが「それは今お前に戦う意思がないからだ」と念押しした。
「百々子のスタンド能力はかなり稀有で強力だ。それ目当てで敵から襲われることを考えたんだろうぜ」
だから他言すら禁じたんだろう、と述べた承太郎に百々子は言葉が出なかった。まさか自分がそんなに強力なスタンドを持っているだなんて自覚はなかったからだ。
「まあ正直、スタンド使いであることはなんとなく予想はついていたよ」
「え!?露伴先生、何でそう思うんですか?」
「前にカフェで小林玉美と一悶着あったとき君、スタッフの胸元に錠前が現れたの、見えていただろう?」
そう言われ百々子はあの時か、と当時のことを思い出す。たしかにバッチリと見えていたため、ようやく今になって白状した。
「なるほどな。それで魔法使い、ね」
続いたのは仗助である。彼はあのカフェの一件後の小林玉美と百々子とのやりとりの際に認識した違和感をようやく理解できた。魔法使いだと戯けた百々子に、まんまと騙されてしまっていたわけだ。
それから百々子は今日までにこの杜王町で起こっていた出来事を皆から聞かされ、百々子は実は自分も巻き込まれていたことをようやく知った。だが仗助らのおかけで杜王町は護られ、百々子も無事に助かったのだ。
その後、億泰から形兆の最期についてを聞く。一言一句を逃さないよう聞いていた百々子は、時折涙を流しながら相槌を打つ。億泰はその時のことを思い出すと、たまに言葉に詰まっていたが、一生懸命に話し続けた。
「ごめんね、億兄」
「なんで、謝んだァ?」
「こんなに辛いこと、背負わせちゃって」
「…俺ァ、別に…」
億泰の手を取った百々子は泣きそうになりながら、そう言った。そんな百々子に億泰もまた泣きそうになっていた。
「康一くんも、ごめんね。きっと怖い思いしたよね」
「いや!でもおかげで僕もスタンド使いになれたし、一石二鳥というか…」
「それに仗助くんも…」
そう言って仗助のことをまじまじと見つめた百々子はあることを思い出す。
夢の中で見た形兆が言っていた言葉。
『…東方仗助は良い奴だな』
その言葉のあとに思い出された情景に思わず百々子は身を乗り出して、仗助の名前を呼ぶ。
「じょ、仗助くん!」
「あ、なんだ?そんな急に大きい声出して」
百々子が急に自分の名前を焦って呼んできたが、全く心当たりがなく百々子のその先の言葉を待つ仗助。そんな仗助に百々子はその情景が頭から離れず、つい頬を染めてしまう。
「あの…その、ッ」
「どうしたんだよ、お前。なんか顔赤ェぞ、熱でもあんのか?」
急に火照ったように赤くなる百々子に仗助は億泰と同じく百々子のベッドに近づき、じっと見つめる。スタンドを明かした今、百々子の傷を治すことも可能になったわけで、そのまま百々子の傷を治そうとしたその時である。
「ごめんね、仗助くん」
「あ?」
ついに仗助のことを見れなくなった百々子はそっぽを向く。その耳まで真っ赤だったことに仗助は驚いてしまった。
「私、あの時、必死で。スタンドとか人に使うのは初めてで、テンパっちゃってて」
「…別に、俺…」
そこまできて仗助はようやく途切れていた記憶の一部が蘇る。自身が意識を無くす前、百々子がたしかにスタンドを使い傷を消してくれた。だが、まだ能力にグラつきがあったようで、全部の傷を消し切れたわけではなかった。問題はそこではない。
記憶の片隅で、確かに百々子に「ごめんね、仗助くん」とさっきと全く同じことを言われていたことを思い出す。微かにだが残っていた意識が、今になって明瞭になったのだ。
途端に仗助まで真っ赤が伝染してしまい、クレイジー・ダイヤモンドを使うために出された右手はそのまま中で固定されたままになる。
「何だよお前ら、今更になって思い出したのかァ?」
真っ赤になった二人をニヤニヤしながら見ていたのは、彼らのすぐ近くに座っている億泰であった。
百々子は仗助の傷を消すために、最も高い密着方法を利用した。その時は百々子も仗助の傷のことで頭がいっぱいで、深く考えてはいなかった。だが、キスなんて、普通に考えれば一大事だ。自身は仗助に想いを寄せているから良いものの、仗助はどうだろう。初めての相手が、友人の妹で、しかもアクシデントだなんて、そんなこと絶対に許せないだろう。そしてそれと全く同じことを仗助も考えていたのだ。
彼ら以外の一同は互いにそんなことを考えているんだろうな、と想像してむず痒さを覚えたのである。
prev booktop next
index