迷ってばかりの曇りのち雨
大倉の件のララの行動は他の3人には黙ってもらうことにした。それでも狡噛と縢にはずいぶん不審がられたし、いくつも質問を投げかけられた。二人にとって(というかララを除いた一係全員からすれば)ララはまだ新人かつ何でこんなのに監視官の適正が出たんだ?と思わず疑問が浮かぶほどの凡人で、勘の鋭さも頭の回転も刑事課最低だったのだ。それがある日突然まるで千里眼でもあるかのように行動すれば、不審に思うのは当然だ。しかし、まだこの時点では自分がトリップしたことや狡噛たちのことはアニメとして知っていることを話してはいよいよ頭のおかしい奴だと思われて宜野座や局長に報告されかねないので、まだ言いたくなかった。ララが神妙な面持で必死に頼み込むと、二人はいつか理由を話すことや皆を危険に晒さないことを条件に半信半疑ではあったが渋々頷いてくれたので、そのあと発生した事件は毎回狡噛と縢をつれて捜査をすることになった。犯人が誰でどういうことをするのか分かっているため、アニメにしたら30分も持たないほどいとも簡単に事件は解決していく。宜野座たちには狡噛と縢が然も自分達で導きだした推理だとでもいうようにみんなに話してくれていたので、ララが不審がられることはなかったし、いくつか事件を解決させるうちに狡噛と縢もララが言うことを信用するようにもなった。ただの視聴者のころからわかっていたことではあるが、狡噛の頭の回転の速さには毎回驚いている。狡噛慎也はやっぱいすごいなぁ…めでたしめでたし。……とはならないのが現実である。そろそろ話さなくてはいけない時が来たのかもしれない。
「標本事件と同じ樹脂…」
分析室のモニターには王陵璃華子の“作品”が表示されている。このあと桜霜学園に行き、狡噛の推理を聞いて槙島が彼に興味を持つというのが本来の筋書きだ。これは止めるべきなのだろうか、それとも原作通りにするべきだろうか。もしここでララが王陵璃華子や槙島について話せば、宜野座は馬鹿馬鹿しいと言ってくるかもしれないが、少なくとも狡噛と縢は一緒に来てくれるだろう。王陵璃華子と槙島聖護の顔や、逃走にホロコスで変装したチェ・グソンが絡んでいることをわかっていれば、三人でもどうにか解決できる気もする。でも、ここで第一期のラスボスである槙島をあっさり逮捕して局長(つまりシビュラ)との取引や第二期における展開に大きな変化が生じるのも怖い。
悩みまくっている間、ララはほとんど狡噛と一緒にいた。もちろん仕事だ。この事件では狡噛は捜査に加われないので二人で留守番というわけだ。宜野座、征陸、六合塚とは今も微妙に距離を感じているがこの頃には狡噛と縢とはそれなりに信頼関係を築きつつあったので、居心地の悪さはあまり感じない。ほぼ毎日顔を合わせていればマッチョのイケメンにも慣れてくるものである。今日も宜野座たちは捜査に行き、ララと狡噛はオフィスでお互いのデスクで捜査資料なんかを見ていた。もう何時間こうしていただろうという頃、狡噛が口を開いた。
「なぁ、今回の事件もアンタは分かってるのか」
「うーん…まぁ」
言うべきか言わないべきか。まだ決心がついていない。
「ただの勘じゃないっていうのはわかってるからな」
「それはその通りですけど」
「じゃあ今回の事件、3年前と同一犯だと思うか?」
「3年前の事件にはメッセージ性がある。でも今回は2件連続で目立つところに飾っているだけ、ですか」
確か狡噛はそんなようなことを言っていたな、と思って口に出してみる。狡噛のほうを見ると驚いたような顔をしていた。何で俺の考えがわかったんだ、とかそんなことを思っているだろう。
「何で今回は渋る?こうしている間にも被害者は増えているかもしれないんだぞ」
「わかってます…わかってますけど……」
今回の事件は槙島が直接関わっている。桜霜学園に行けば槙島がいる。もしここで王陵璃華子のみならず槙島のことも話したら狡噛はきっとすぐに桜霜学園に行くというのは簡単に想像できる。そして槙島を殺すかもしれない。そうなったら狡噛は執行官ではいられなくなり、もしかしたら処分される可能性もある。それは避けたかった。視聴者のころ一番好きだったキャラが狡噛だったというのもあるし、こうして同じチームで働けば情だって湧く。槙島を殺すのならそれは海外へ逃亡する準備をしてもらってからだ。しかし、うだうだ悩んでハッキリしないララに狡噛も追い打ちをかける。
「ここ最近の捜査が全部、アンタの指示で動いて解決したってギノに報告するか?」
「ダメダメダメ!…狡噛さんの脅し恐いんでそういうのやめてください」
慌てて狡噛のほうを見ると彼もララのことを見ていた。
「…じゃあそろそろ教えてくれ。何で事件のことがわかる?」
狡噛の真剣な眼差しがララの目のそのさらに奥を覗こうとしてくる。そろそろ本当に言わなくちゃいけない時が迫っているらしい。でも、まだ決断はできなかった。とりあえず狡噛のほうに向けていた体を元に戻して王陵牢一の作品をネットで検索をした。決してメンタルに良さそうとは言えないそれらの絵は数はあまり多くないが個人のブログなんかには時々画像がアップされている。
「この絵、見てください」
狡噛はイスから立ち上がり、ララの横に来た。
「これは…」
絵を見てすぐに狡噛も気づいたようだ。
「この作者の娘が桜霜学園にいます。王陵璃華子を探してください」
「……」
「これで今回の事件のことは言いました。だから、何でわかるかについてはまだ待ってください…お願いします」
そう言うと狡噛は小さく溜め息をつき、コートを羽織ってドアに向かって歩いた。
「何してるんだ。王陵璃華子を探せって言ったのアンタだろ」
「今から?」
「当たり前だ」
そんなわけで仕方なくララも席を立って黒いダッフルコートを着た。
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王陵璃華子は美術部です、とだけ告げてララは傍観することにした。桜霜学園に到着するころには意志はすでに決まっていた。あくまでも原作通りに事件を解決することにしたのだ。紅藤ララという存在によってストーリーが変化するのはどうにもできないが、それでもできるだけ同じようにしたいと思った。
学園に到着してからはとくにララが手を貸さなくても狡噛はすぐに王陵璃華子を発見したが、女生徒のホロコスをしたチェ・グソンの手引きであっさり逃走されてしまった。そして今は一係全員揃って監視カメラを見ている。ここまで原作通り、順調だ。
「ここ、出入りに対するセキュリティーばっかり厳重で、いざ中でかくれんぼとなるとざるもいいとこなんスよ」
聞いたことのある縢のセリフを右から左に聞き流す。六合塚は狡噛の指示通り王陵璃華子の画像をピックアップしている。
「しかし、王陵牢一だと?そんな絵描きがいたなんてどうしてわかった」
「紅藤が昔見たことがあったそうだ」
「紅藤が?そうなのか、紅藤」
お前、あんな悪趣味な絵好きなのか?とでも言いたげな顔で宜野座が見てきた。そんなわけないでしょうと心の中で返答して、本来は無いやり取りだが合わせるしかない。
「高校の傍の古本屋で。すごく印象的な絵だったんで覚えてたんです」
「そうか。ならば今回の事件は藤間の仕業じゃないと最初からわかっていたのか?」
(待ってくれ待ってくれ。この質問て狡噛さんに投げられるものじゃなかった?何で私に来たの?)
「それは…その…こ、狡噛さーん…」
うまい返し方がわからなかったので狡噛に助けを求める。こういうとき狡噛は頼りになるので、それを信じることにした。
「もちろん王陵牢一の絵にそっくりだったこともあるが、3年前の事件と比較すると今回はただ目に付けばいいというだけで遺体の陳列場所を決めている。二回続けて公園を選ぶなんて藤間幸三郎だったらあり得ない」
「それで王陵牢一の血縁者が学園にいると判明した、と。そういうことか紅藤」
(何かあくまでも私が推理した、みたいになってるけど…)
「……はい」
「しかし、だからといってまだ全てが王陵璃華子の仕業だとは…」
「どうであれ、あんな犯罪係数をマークした娘を放っておくわけにはいかない。そうだろ?」
色々ハラハラしたが、どうにか軌道修正したことにホッと胸を撫で下ろした。
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