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今日も無事、バイトが終わった。書店名の書かれたエプロンを脱ぐと、今度はハンガーに掛けてあった青いコートを羽織る。袖とか肩幅とかは少し大きいけど、最近よく着てしまう。
「お先に失礼します、お疲れ様でしたー」
まばらな返事を聞きつつドアを閉めて書店を後にした。バイトが始まる前に軽くサンドイッチは食べておいたけど、時刻は午後11時。さすがにお腹が空いてしまった。帰宅する途中の家の近くのコンビニに行くと、大学の友達がレジに立っていた。この子も家がこの辺りのようで、次の日が休日の場合は遅番もしているらしい。秀星がいなくなってからは二日に一度はコンビニ弁当になってしまったこともあって、春休みの期間だというのに結構な頻度で顔を合わせていた。こんな時間だけどいいよね、何か疲れたし牛カルビ弁当食べちゃお。一日くらいなら太らないでしょ、まだ大学生だし。それとシュークリームも。店内にお客さんは私だけでレジに持っていくと友達は私がまたお弁当を買うのを見て苦笑いしていた。私だって苦笑いしたくなる。
「ここ最近コンビニ弁当多いじゃん。前まで全然来なかったのに」
「何か、作るの面倒になっちゃって」
「まぁ、一人暮らしだと作るの面倒だよね」
そんな雑談をしつつお会計をして、コンビニから出た。
一人、ぽつぽつと街灯が照らす歩道を歩く。夕飯を作るのが面倒になったのは本当だ。短期間とはいえ秀星が料理を作ってくれてた間ずっと料理しなかったせいで、今さらやる気が起きないっていうか。まぁ、元々冷凍食品が多かったわけだけど。それに料理作っても食べるのが私だけだから、自分のためにわざわざ面倒なことする必要あるの?と思ってしまうようになった。美味しいものは好きだけど私はコンビニのお弁当で満足できる。何なら毎日お弁当で良い。でも、それはさすがに金銭面と健康面を考えて、時々実家から送られてくる惣菜をおかずに米だけ炊いて夕飯にしている。
丁度、青信号で横断歩道を渡ると脇道には入らないで大通りに面した街灯の多い歩道を歩いた。この道だと少し遠回りになるけど、夜はいくら近道だとしても暗い道は歩かないようにしていた。今は春休みで大学は無いし、友達や実家への連絡もそんなに多いほうではないから、もし私に何かあっても気づかれるのはきっと何週間も経ってからになる。女の子の夜道の一人歩きは警戒しすぎってくらい警戒して歩かなくちゃ。ここにはシビュラシステムなんて無いのだからいつどこに犯罪者がいるかわからない。
そう思ってたのに――――
「君は我々の時代を知ってしまった」
車道では車がビュンビュン走っているのに歩道には私たち以外誰もいなかった。突然、目の前に現れた神経質そうな男には何となく見覚えがある。確か、秀星が追っていた科学者の潜在犯だ。どうしてまだこの時代に?秀星がこいつのこと追いかけて、それで戻ってこなくて、だからきっと上手く片付けたんだって…思ってたのに。
「もし君が我々の時代に来たら、シビュラは君をどのように裁くのだろう」
「何、言ってるの…」
思わず後ずさった。嫌な感じがする。多分コイツは私を未来に連れていく気だ。コツ、コツと男も一歩ずつ私に近づいてくる。今まで感じたことのないほど心臓の音がうるさい。
「興味深いと思わないか」
逃げなきゃ。そうだ、さっきのコンビニ。誰か、人のいるところにいかないと…
「さあ、君は被験者になるんだ」
助けて――――…
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