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「こんなにふざけた報告書は見たことが無いぞ!」
ギノさんは俺がせっかく書き上げた報告書をデスクに叩きつけた。
「そう言われても本当なんだから仕方ないじゃないっすかギノさん!」
「タイムマシンで過去に行っていただと?空想は頭の中だけにしろ!」
ギノさんマジで頭堅いわ…。
小さくため息をついた。
アイツに背中を蹴られた俺は強い光に飲み込まれ、次に目を開けたときには見覚えのある汚ない道端に倒れていた。周りを見回しただけでここが廃棄区画だとわかり、2112年に戻ってこられたんだと理解した。過去では作動していなかった腕の携帯端末もどうやら動いている。ってことはGPSも動いてるはずだ。どうせすぐに見つかるんだろうけどGPSで発見されるよりこっちから連絡しといたほうが後々面倒にならない気がして、ギノさんに電話すると案の定ものすんごい怒鳴られた。そしてご丁寧に護送車を寄越してくれたのだった。
護送車で一人揺られながら考えるのはアイツを取り逃がしたことと、羅々のこと……アイツはあんなもん作って何をするつもりなんだろうか。仲間とかはいないのだろうか。もしあんなもんの存在が世の中にバレたら大変なことになる。取り調べする気は満々だったのに…油断しちまった。羅々は今頃何してるだろうか。いや、今頃っていうと何か違うな…今の羅々の居場所を厳密に言えば恐らく墓の中だろう。そうじゃなくて俺が走り去った後のことだ。俺なんか待たずに無事に家に帰っただろうか。一番気にかかっているのはあの時、アイツに羅々の顔を見られてしまったことだ。もしかしたら何か危害を加えているかもしれない。…やっぱ無理言ってでも羅々には着いて来ないようにすれば良かった。今さら後悔しても後の祭だけど。
そんなことを考えてると護送車が公安局に着いた。そして扉が開くなりいつもより3割増し目が冷たいギノさんが仁王立ちしていたのだった。
脱走を疑われたのは言うまでもない。でも俺からわざわざ連絡をしたことや、しばらく通信できなかった携帯端末にも何の細工もしていないことなどが分かってもらえてとりあえず脱走ではないと認められた。とはいっても執行官でありながら暫く公安を離れたのは事実だし、何よりドミネーターを紛失したことがマズかったらしく宿舎で謹慎を言い渡された。ドミネーターを羅々の部屋に置きっぱなしだったというのはそこで気づいた。久々の我が家で報告書を書き、ギノさんに渡しに行ったのがついさっきのこと。で、超怒鳴られた。
「書き直してこい!」
「えー。でもそれが事実なんスけど?」
「認められるか!」
「いや、あり得るかもしれないぞ、ギノ」
ぶーぶー文句を言っていると、コウちゃんが口を開いた。コウちゃんもなかなか頭の堅い人だと思ってたから意外だ。ギノさんはコウちゃんをレンズ越しに睨み付ける。
「どういうことだ?」
「シビュラは特別な才能を持った人間を危険だと判断することがあるからな。ましてや過去へ行く、なんてこの社会を壊しかねない。俺らが考えもつかないような頭の良い奴がいたとしたら、そいつは多分潜在犯になってるとは思わないか?」
「何が言いたいんだ」
「芸術家と似たようなもんだ。違うのは科学者は自分で逃げ道を作ることができるってこと」
「それは…つまり、過去への逃亡ってことか?」
「縢の話を信じるならな」
なるほど、と思った。ギノさんも目を見開いている。この時代、人と違うことをしようとすると大体は犯罪係数が上がる。
「縢が無くしたドミネーターもGPSが探知できないんだろ?」
「だが…信じろって言うのか、過去に行ってきたなんて」
「そうとは言ってない。可能性の話だ」
コウちゃんの話はどれも納得できるものでギノさんも半信半疑ながら一応報告書は受け取ってくれた。
にしても、潜在犯が逃げ道として過去に行く、か…。最後にアイツはまだやらなくちゃならないことがあると言った。つまり、タイムマシンを作って過去に逃げてそれでおしまいってわけじゃねえってことだ。
アイツは何かやらかそうとしてる。そして恐らく、仲間もいる。
俺はポケットからプリクラを出し、そこに写った羅々を見た。そこにかかれた2012年という日付け。俺らはただ離れ離れになっただけじゃない。生きる時代がそもそも違うんだ。今となっては電話で声を聞くこともできなければ、このプリクラ以外に写真すら無い。無事かどうか確認することすらできないなんて…
ごめん、羅々。
もしかしたらヤバイことに巻き込んじまったのかもしれない。
とりあえず縢の逆トリップ完結!
あとがき
続編はRestartから!
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