04
「こっちが驚いたっつーの!」
「ごめんごめん…」
目が覚めてトイレに行こうと扉を開ければ男が寝ているものだから咄嗟に踏みつけてしまった。そしたら秀星がうめき声を上げて飛び上がったことで、私もそう言えばそうだった、と思い出した。悪いことしちゃったな。それでも秀星はちゃんと朝食を作ってくれるのだから良い奴だと思う。私一人ならトーストだけのところをスクランブルエッグまで作ってくれた。ミニテーブルは二人分の朝食を並べただけでいっぱいになっている。
「タイムマシン探しはいつするの?」
「今日からでもしたいんだけど…」
「どこ探す?今日はバイト無いし付き合うよ」
できることならタイムマシンは早く見つかってほしい。秀星が良い子っていうのは分かったけど、まだ信用しきれてないしやっぱり食費や光熱費を考えてしまう。というわけで、今日はタイムマシン探しをすることになった。
「なんかスゲー栄えてんだ…」
二人で地下鉄に乗って目的地の最寄り駅に降り立った。地上に上がると秀星は物珍しげに辺りを見回した。この辺は繁華街というよりはオフィス街と言ったほうがしっくりくる場所だ。ビルは建ち並んでいる景色は未来人からしたら珍しくも何とも無いだろうに。
「こんなのが珍しいの?」
「風景は珍しくないけど、ここって未来だと廃棄区画っていうシビュラの目が届かない無法地帯になってるからさ」
「えっ、そんなのがあるの?」
「結構あるよ。薄汚れた汚いビルばっかで、道にはシビュラ社会から弾かれた連中がたむろしてるような区域」
そんな風景、信じられない。この時代からビルはたくさんあるものの、ここからはそんなアンダーグラウンドな雰囲気はまったくしない。百年も経つと技術以外の面でもかなり大きな違いがあるらしい。
「アイツを追ってたのも、確かこのエリアのはずなんだよ。もし過去と未来がリンクしてれば、タイムマシンは同じ場所にあるはず」
「なるほど。で、奴がいたのはどの建物?」
「それなんだけど…景色違いすぎて全然分かんないんだよな…」
「まぁ…そうだよね」
とりあえず道は変わっていないはずだからと、なるべく細い路地に入ってみることにした。路地に入ればさすがに薄暗くて怪しげな会社とか雑居ビルが立ち並んでいる。秀星は道を思い出しているのか、じーっと前を見ていた。
「こんな感じの道だった気がすんだよなぁ…」
「じゃあ、この辺りの建物ってこと?」
「だと思う。はぁ…もっとちゃんとクニっちの話聞いとけばよかったなぁ。住所全然思い出せねー」
秀星はため息をついた。秀星が捜査に関する情報をちゃんと聞いていなかった、というのは簡単に想像できてしまってププっと笑ってしまった。こんな若い男の子が刑事やってるなんて私が生きてるこの時代ではありえないことなのに未来ではきっと受け入れられてるんだよね。やっぱり、時代の差を感じる。
「通りの名前とかは思い出せないの?」
「通りっつっても…廃棄区画だから、この時代みたいに標識立ってないとこが多いしなぁ…」
「そっか…廃棄区画っていうのが厄介だね」
未来のことが何もわからない私は今の日本の街について少し教えたり案内することぐらいしかできず、流石に見知らぬビルに入っていくわけにも行かないので今回は大体の場所の特定ということになった。もしこれで秀星の追う潜在犯が既に未来に戻っていたら…と思うと先が思いやられる。ふと時計を見ると13:30。そろそろお腹も空いてきた。
「とりあえず、お腹もすいたしごはん食べよっか」
「良いの?外食高くつくじゃん」
「秀星との外食はこれが最初で最後かもね〜」
冗談を言いながら、近くで美味しそうなお店を探した。昼休みの時間は終わるころなので帰っていくお客さんのほうが多い印象だ。さすがにランチで1000円を超えるところはキツいけど、せっかくだから料理好きな秀星に百年前の料理を食べさせてみたい。
何件か見て目に留まったのはこの辺りでも古そうな雰囲気の喫茶店だった。スープとサラダ付のランチセット900円。
「ここにしよう」
この辺りでスープとサラダ込なら安いだろう。店内に入ると外から見るよりは広かった。とはいってもチェーン店のファミレスと比べたら狭い。従業員はおじいちゃんと大学生くらいの女の子の二人だ。バイトの子に席を案内され、お店の真ん中らへんの二人掛けの席に座る。お冷とおしぼりを受け取るとさっそくメニューを広げた。最初のほうのページに平日限定ランチメニューが載っている。
「へぇー!何食おうかなぁ」
「私ランチセットのオムライスドリアにする」
「結構がっつりしたのいくね。じゃあ俺はランチセットのシチューオムライスにする」
店員のお姉さんを呼んで注文をするとすぐにサラダとスープが運ばれてきた。サラダにはシーザードレッシングがかかっており、スープはオニオンだ。
「やっぱ良いよな、この時代。…ちゃんとした食材使ってて」
そう言って秀星はスープのにおいを嗅ぐと一口飲んだ。秀星の時代は何でもハイパーオーツで、それ以外の食材は取り扱っている業者すら少ないらしい。秀星、ちょっとうれしそう。連れてきてよかった。
「秀星はこの時代のほうが合ってそうだね」
「同感。生まれる時代間違えたわ」
「マシン見つけたらさ、すぐ帰るの?」
「まぁ、また見失っても嫌だし帰るかなー」
「そっか…」
あまりにも普通に言う彼にそのとき私は一瞬だけ、帰ってほしくないと思ってしまった。
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