07
以前までならバイトのない日は家でゲームしてるのがほとんどだったのに、最近はバイトがなくてもよく出掛けている。どこに行ったか聞いても何だかはぐらされてる気がした。もしタイムマシン探しならそうだって言ってほしかった。秀星が隠し事をしてるなんて信じたくないけど、まだ一緒に暮らしはじめて二週間。こんな短期間で他人を信用するほうがどうかしてるのだろうか。
今日は私もバイトがないから二人とも家だ。朝から二人というのは久しぶりな感じがする。時間に終われることもなく朝ごはんをゆっくり食べて二人でテレビを見ていると朝の情報番組ではロボットやメカの展示会の様子を伝えていた。自動で運転してくれる車や液晶を必要としないテレビなどをリポーターが紹介している。私からしたら未来ってすごいなぁ、という感想だ。秀星はどうなのかな、と思って見てみると何ともない顔でハムエッグを食べていた。
『わぁ、可愛いロボットですねー。こんにちわー!』
『コンニチワ』
『今日の天気は何ですか?』
『今日ノ東京ノ天気ハ曇リ、最高気温ハ18℃ダヨ』
『すごーい!お天気を教えてくれましたよ!』
まぁ、確かにすごいけどあんなサイズのロボット置くくらいならノートパソコンとかスマホで十分だな。
「ねぇ、未来って本当にああなってる?」
「もっとスゴいよ。家庭用のドローンは天気だけじゃなくてニュースも教えてくれるし、もっと滑らかに喋るし、その日の色相も教えてくれる」
「ハイテクだなぁ」
「百年も経てば変わるよ、色んなことがさ」
そう呟いた秀星の目が何だか遠くを見ているような気がして少し寂しくなった。百年という時間の差を実感することは私にはできないけど、きっと秀星は色々感じてるはずだ。本来こうして会話をすることさえあり得ないのに今二人で朝食を摂っているのはおかしいことなのだろう。…あー、何か急に寂しくなってきた。
「秀星、出かけよっか」
先に食べ終えた私は空いたお皿を持って立ち上がると、告げた。私に見下ろされるような状態で秀星は少し驚いた顔をしてこっちを見上げた。
「良いけど、急じゃん。どしたの」
「急に出かけたくなった」
「じゃあ俺もさっさと食わねぇと」
秀星は食べるペースを少し上げた。その間に私は自分のお皿を洗う。…急に出かけたくなったのだ。何だか、もう秀星と一緒にいれる時間が短いような気がして。それまでに想い出といってはなんだけど…ただ家で一緒にいるだけじゃなくて、色んなところに行きたくなったのだ。何度か外には出かけたことはあったけど、それはあくまでタイムマシン探しという名目だったから場所も大体同じで、しかもそこはオフィス街だったからこの時代の繁華街や商業施設には行ったことがない。今日はたくさん遊んでやる!そうしよう!
お台場に来ると海が近いからか風が少し強くなった。でもきちんとコートを着ていれば寒いというほどではなくて丁度良い。若い男女がお台場に来るとか何だか付き合いたてのカップルみたいだなぁ、なんて思いつつ商業施設に入る。平日だからかそんなに混んでいない。
「店の感じとかはあんま変わってねーのな」
「そうなんだ?」
「よく見りゃ変わるのかもしれねーけど、パッと見は」
「へえ。あ、秀星のいた時代だとこの辺って何があるの?」
電車に乗ったとき行き先を見て秀星が何か呟いていたのだ。新橋が廃棄区画になっていたり、百年も経つと街の区画も色々変わっているみたいだし、この辺も違うのだろうか。
「もう少し先にノナタワーっていう厚生省の本部ビルがある。バカみたいに高層だからこの辺からでも見えたんじゃねぇかな」
「え、そうなの?」
厚生省本部…霞が関じゃないのか…百年の間に何があったんだよ。
秀星の話にわりと頻繁に衝撃を受けながらも適当にお店を見て回った。こうしてると本当にどこまでも普通で、秀星のどこに犯罪者の可能性があるのかまったく理解できない。一緒に住んでみてもそうだった。凶暴なところも危険なところもまったく感じない、以外と真面目で気が利くごく普通の青年。きっと周りの人たちだって、私たちのことはただのカップルか友達にしか見えていないはずだ。
メンズのお店の前を通りかかってそういえば秀星の服が全然ないなぁと気づいた。元々着ていた服の他にはパジャマのスウェットと、私が通販でサイズを間違えて買ってしまったTシャツに、大きめのパーカーぐらい。ちなみに今日は青いコートの下にそのパーカーを着ていて、女の子がぶかぶかに着るように作ってあるから小柄で細い秀星が着ても余裕がある。でもさすがに他にも服が必要かもなぁ。最近暖かいし。
「ここ見ようよ、秀星」
「え、いいけど…」
あまり乗り気ではなさそうな秀星の腕を引いて中に入る。
「これ似合いそう!」
私が手に取ったのはライダースジャケットだ。秀星の靴とも合いそう。ちらっと値札を見るとそんなに高くもない。
「俺、今ある服で足りてるよ?」
「でも最近、気温上がってきたし。私買ってあげるよ」
「マジで?!良いよ、そんな!」
秀星はすごく驚いて首を振った。こいつにも遠慮というものがあったのか…意外だ。
「遠慮しなくていいから。これが最初で最後!」
「けど…マジで良いの?」
「良いの。それに秀星が食費として渡してくれてるお金が結構残ってるし」
「それなら、まぁ…」
どうやら納得してくれたようだった。実際に秀星はわりと稼いできてくれるので、自分の分の食費以上の額を渡してくれている。電気水道ガスさえ賄えているのだ。念のため袖を通してもらえば細身の秀星にぴったりだった。
「そのライダース再入荷したばっかなんですよー。残りの在庫も少なくなってきてるんで、買うなら今です!」
店員のお兄さんが近づいてきた。そう言われてしまうと尚更これに決めてしまおうかという気になってくる。秀星は腕を動かしたりして着心地を確かめているようだ。合皮だけど柔らかくて動きやすそうだし、ゴテゴテ飾りも付いていないから着まわしもしやすそう。お兄さんもおすすめしてくるので買うことにした。お会計を済ませて店の外で待っていた秀星にショッパーを渡す。
「ありがと、羅々」
「ううん。いつも美味しいごはん作ってくれてるから」
そう言うと秀星は少し恥ずかしそうに笑ってショッパーを受け取った。その顔を見られただけで、何だか幸せな気分になる。秀星が嬉しそうにしてくれることで私も嬉しくなった。
二人でオムライスを食べたあとは秀星のリクエストでゲームセンターに行った。家で対戦ゲームしてるときから相当ゲーム好きだな、とは思っていたけどそれはここでも発揮された。何と、クレーンゲームで特大サイズのお菓子が100円でゲットできたのだ。色々ゲームは見て回ったけど、やっぱり最後は…
「ねぇ、次はプリクラ撮ろ!」
「プリクラ?」
「そう!」
腕を引いて適当に空いてたプリ機に入る。さすがにプリクラは慣れていないのか何が何だかよく分かっていないような秀星だったけど、一枚撮ればその後は何ら問題なく色んなポーズをして二人で変顔もした。
「羅々の変顔ひでーなぁ!」
「秀星だってすんごい顔してるけど!」
そんなことを言いながらお互いに笑ってそれぞれ落書きをしていった。秀星が書いたほうには2112年から来ました、なんて書いてあるので私も日付けスタンプの他に未来人と書いておいた。こうやって二人で笑いあってると、これから先も秀星はずっと隣にいてくれるんじゃないかって、そんな気がした。
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