「ねぇねぇ、鹿矢。俺のつくったお菓子が食べられないってどういう了見〜?」
「食べれなくない!ちょっと精神統一させて!」
「はやくはやく〜。口に無理やり突っ込んじゃうよ〜」
「……いける!」
「はい、あーん」

もごっ、と容赦なく凛月作のお菓子を口に入れられる。
仮にも女の子なんだけどな。
特技らしいそれはピアノだと思っていたんだけど――彼はお菓子作りという、またテクニカルな分野を極めているようで。

味はどう?と期待の眼差しを向けられながら、口の中に広がる凛月ワールド(見た目はともかく味は最高級である)を堪能してごくんと飲み込んだ。

「美味しい……!」
「ふふふ。でしょ?ほら、もっと食べて食べて♪」

と言うのが半刻ほど前の話である。
雛鳥に餌を与えるがごとく次々に私の口の中にお菓子を放り込む凛月は超がつくほどご機嫌で、しばらくそれは続いていたのだけど。
校内放送で呼び出されてしまっては離れるほかない。
不満げな凛月をなだめて、私は生徒会室へ向かった。

呼び出した張本人――蓮巳曰く、なにやら芸能事務所からインターンシップのお誘いがあったのだという。
教師陣は慌ただしくしているらしく、伝言を任されたらしい。
加えて後回しにしていて忘れかけていた【DDD】の経費精算だとか、捺印が必要な書類を渡されて淡々とこなしていく。天祥院ら他の役員は不在のようだ。

「インターンの件、引き受けるかどうかは貴様次第だが」
「んー。どうしようかな、迷いどころだね」
「まぁ、『Knights』の仕事と被る可能性も十二分にあるからな。だが将来のことを考えれば、どんな経験も決して無駄にはならん」

蓮巳が簡単な資料はまとめてくれていたようなので、貰っておくことにした。
中身をぱらぱらと見て彼の若干歯切れの悪かった理由を察する。

「いやこれ、本当に先方から?」
「どういう意図かは俺も知らん。あくまでも『広報準備室』宛てに届いた話だ」
「期待の『プロデュース科』ではなく、ねぇ」
「妻瀬。貴様はどうも卑下する傾向があるが……『広報準備室』には積み上げてきた実績がある。それは紛れもない事実だ」
「あはは……ありがとう」

褒められると、少しむず痒いけど嬉しい。
返事は一週間ほどを目安にしてほしいとのことだったので、今度ゆっくり考えることにしよう。
それにしてもインターンシップか。大学生が就活前にするようなものだと思っていた。それに、あんずちゃんではなく自分に声がかかるなんて驚きだ。

「……進路とか考えてなかったな」

気づいたらもう、高校三年生だ。
ふつうならば受験勉強に取り組んだり、就職活動なんかをしなければならない時期だけど。
この先どうしたいとか、そういうのって考えてこなかった。

彼らは――とくに卒業してしまう瀬名なんかは進路、どうするのだろう。
『Knights』は来年、どうなるのだろう。





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