「……鹿矢はあんまり先輩らしいことさせてくれねぇよな〜。生意気な後輩だよまったく」
「同輩ですよー、いちおうは」
「ははっ、敬語と先輩呼びしてるのは自分のくせに?」

先輩の言う通りではある。
べつに朔間先輩は、もとから私のことを後輩として扱っていたわけではない。彼に私を“後輩”と認識させるようになったのは、たぶん私の呼び方だったり敬語を遣っていたからだろう。

蓮巳は腐れ縁と言っていたし、他の同輩も朔間先輩にタメ語だし呼び捨てだけど。
私にとってのスタートダッシュは『スーパースター朔間零先輩』だったから、春なんてとくに進級したてで――ひと月前まで先輩だったわけだし。

「出会った頃はほぼ先輩だったから……。今でこそハーフですけど……」
「ふぅん?でもお前は『朔間零の女』だろ。――つまり俺は『妻瀬鹿矢の男』だしな?呼び捨てにしても怒らね〜ぞ?」
「お、男って。……大神くんあたりに殺されかねないので!」

青春モノの映画だと先輩呼びの恋人同士なんてザラなんですよ!
とか言ってもいいんだけど。れ、零とか。言えないって言うか。ちょっとさすがに。それに。

「……………………恥ずかしいんですよ。男の子のこと呼び捨てとかしたことないし」
「…………へぇ?」
「あー、あー、あー、帰りましょう。先輩、送っていきますから、もう帰りましょう」
「なに、呼び捨ては照れるって?可愛いな〜鹿矢ちゃんは」
「あー、あー、聞こえない!家どこですか!教えてくださいよ!」
「どうすっかな〜」

くっそー、やっぱり言うんじゃなかった!





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