「ほんっっっとごめん!こんな格好でごめんなさい!」
「……そんな格好で謝られてもねぇ」

哀れみしかない、みたいな表情で私を頭からつま先まで見て、瀬名は大きくため息を吐く。

折れたハイヒールに、風に煽られてボサついた髪の毛にひび割れた端末。
言い訳をすれば、私はべつにドジっ子属性とかではなくて、不運に不運が重なっての顛末である。
着く直前に突風に吹かれただけだし、前を見ずに歩いていた小学生が突っ込んできて端末がぶっ飛んでしまっただけで。まあヒールに関しては、慣れなさすぎてすっ転んでしまったからなのだけれど。

約束に遅刻してしまう、という恐怖心とこの姿を晒すという羞恥心を天秤にかけたところ、前者に傾いたのだ。
待ち合わせ場所がもうすぐそこだったというのもあるけれど。

「とにかく、こっち来て」
「ご、ごめん……」

瀬名の肩を借りて、ひょこひょこと近くのベンチに移動する。
とりあえず髪はなんとかなるか、とカバンからブラシを取り出してさらさらと整えていく。

「……靴、買ってくるから。ここから動かないでよ」
「いいの?」
「このまま見捨ててもいいんだけど?」
「え、それは嫌だ!ごめんってば!」

私の焦る姿を笑って、冗談だよと言葉を残して瀬名は人混みに消えていく。
そういえば私の靴のサイズ、知ってたっけ……なんて思いながら端末を見ればバキバキの画面とご対面したので悲しい気持ちになった。
今日はせっかくの休日で、珍しく瀬名が私の買い物に付き合ってくれて、秋物のコートを見繕ってもらうはずだったのに。

「(開幕から、迷惑をかけてしまった……)」

辺りは待ち合わせスポットということもあって、道行くカップルや高校生たちが悲惨な私の姿を背景に楽しげに歩いていく。
ヒールを高くすれば、瀬名の隣にいても少しはましだと思って履いてきたのだけれど裏目に出てしまった。
恋人と手を繋いで歩くスタイルの良いお姉さんたちは、ヒールも履きこなしてしまうから、すごいと思う。……やっぱり慣れなのだろうか。

少しして、人混みに酔ったのかげんなりとした瀬名が帰ってきた。
どうにか靴を買ってきてくれたらしい。

「ほら、買ってきたよ。変なヤツに声かけられなかった?」
「大丈夫。ありがとう、お金はあとで払うね」
「……お金はいいよ。どうせ俺の隣を歩いても恥ずかしくないように〜とか、背伸びして慣れないヒール履いてきたんだろうし」
「……えー、なんで分かるかなぁ」
「妻瀬が考えることなんて、だいたいお見通しだよ」

いいから履いてみて、と瀬名は箱から真新しい靴を取り出す。
低めのヒールで、靴の先は履いているハイヒールと違って丸みを帯びている。踵部分に小さめのリボンがちょこんとついていて、シンプルだけど可愛いデザインだ。それに歩きやすそうだから、転ける心配もないだろう。

サイズは伝えていなかったものの、なぜかぴったりだった。

「どう?」
「うん、すごく歩きやすい。デザインもかわいい!」
「良かった。今日の服にも似合ってるし……、さすが俺だよねぇ?」

いつもの自画自賛も今は称える他ない。
本当にありがとう、と伝えると瀬名は少しだけ笑って、仕切り直しと言わんばかりに手を叩く。

「はいはい。じゃあ、さっさと行くよ。コート見にいくんでしょ」
「あ、そうだった」
「ちょっとぉ?まさか靴だけで満足しただなんて言わないでよ」
「満足はしたけど、ね?行こう、瀬名!」
「あっ!ったくもう……また転けてもしらないからねぇ?!」

ショーウィンドウに映る瀬名と私とでは、隣に並ぶとやっぱり少し見ていられないくらいなのだけれど。
それでも瀬名の買ってくれたこの靴はシンデレラのガラスの靴に思えるくらい綺麗に見えて、自然と足取りは軽くなった。





prev next