「曲をつくりたい?」
「そう、つくってみたくて。……だから教えてください!」

月永と引き合わせてもらって、少しして。
本格的に彼の音楽を近くで触れるようになってからというものの、次々に生み出されるそれを私は瀬名に負けじと聴いていた。

どうしてこんなに綺麗に紡げるのだろう、とか、聞きたいことは色々とあるのだけれど、自分で作ってみたい、だなんて身の程知らずなことを考えたのだ。
それなられおくんに教えて貰えばいいじゃん、なんて瀬名は簡単に言うものだから。私は月永に現在進行形で頭を下げているのである。

「頭上げろよ〜。うーん……教えるのはいいんだけどさ、おれはべつに特別なことはしてないからな〜……?」

月永はたぶん、直感型の天才だ。
理屈とか理論とかそう言うのじゃなくて――無意識に意識しているのかもしれないが――ものごとの『ぴったり』や『こういう風にしたい』を見つけて、感覚的に曲に落としているのだと思う。
すべてを真似できるわけではないと思うが、せめてその想像力に近くにいってみたいのだ。

「まあ、まずは楽譜をちゃんと読めるようになってからだな!」

鹿矢、そういうの『からっきし』っぽいし。なんて笑顔で跳ね除けられてしまっては、ぐうの音も出ない。

「よ、よ、読めるもん!」
「ん〜。じゃあこの音は分かるか?」

そうやって虚勢を張ってしまったらもう後戻りはできない。
月永は手に持っていた五線譜に、さっと音符を描いて私に見せてくる。……思い出せ、私。中学の音楽の授業で習ったはずだ。下から二番目と三番目の線の中にあるってことは。

「ミ……」
「ぶっぶー」

ボヤけて見えて感でなんとかなる視力検査ではないのだから、まあ、当たるはずはなかった。
自分の無学さが見て取れる。音楽史とかの成績はそこそこ良いのだけれど、楽譜を読むとかそういう実技に関しては月永の言うとおり『からっきし』なのである。

「そんなに落ち込むなよ〜。はじめから読めるやつなんかいないからさ。それはもう超人とか、宇宙人とかそういうやつだよ」
「くう……凡人らしく、いちから学ぶことにします……」
「うんうん、鹿矢は勉強熱心だな〜?いい子いい子……♪」

ぽふぽふ、と上機嫌で私の頭を撫でる音楽の天才に教鞭を取ってもらう日を思って、私は帰りに本屋に寄ろうと画策したのだった。





prev next