「一人暮らしって……思い切ったわねェ。鹿矢ちゃん、実家遠いんだっけ?」
「そうそう、ちょっと距離あるし往復の時間がもったいなくて。【DDD】の後処理もひと段落ついたし、土日に引っ越すの」
「もうすぐじゃない。お手伝いが必要ならいつでも呼んでちょうだいね。鹿矢ちゃんって私物少なさそうだけど」
「あはは、あながち間違ってない」
「……それにしても。親御さん、よく許してくれたわねェ。男の子ならともかく女の子の一人暮らしなんてふつう心配じゃない?」
「最初は反対されたよ。まぁでも休みには帰るし、県境を越えるってほどの遠さでもないから。自炊はきちんとしろって言われたからそこが難所かなぁ」
「ウフフ。鹿矢ちゃん、そういう“女子力”はウチのメンズたちに負けてるもの。いっそのこと指南してもらったら?」
「指南どころか指導入りそう」
「……目に見えるわね。って言うか報告したの?凛月ちゃんはともかく、泉ちゃんなんか猛反対しそうなものだけど」
「いや、まだ。終わってから言おうと思って。なるくんの言う通り瀬名あたりに言ったら面倒ごとになりそうだし」
「何が面倒ごとになるって?」
「ひっ」
「タイミングが悪いわねェ」
「妻瀬、あんた一人暮らしするつもりなの?料理もまともに作れないくせに?」
「つ、作れないけどさぁ。今はネットっていう文明の力があるの。動画とかたくさんあるし、工程さえ分かれば作れるし?」
「そういうやつに限って作らないんだよ。あんたのお母さんもなんで許可したんだか……今から説得してあげてもいいんだけどぉ?」
「お母さんと一回しか会ったことないでしょ。連絡先も知らないくせに」
「知らないとでも思った?甘いねぇ、挨拶した時に交換済みなんだから」
「嘘でしょ……」
「はいはい、二人とも落ち着いて。泉ちゃんも心配なら素直にそう言えばいいじゃない」
「べつに心配なんか……。野垂れ死でもされたら寝覚めが悪いってだけ」
「野垂れ死ぬほど生活能力低くないから!瀬名は私のことなんだと思ってるの」
「仕事にかまけて食事を蔑ろにするのなんて目に見えてるでしょ」
「たしかに鹿矢ちゃん、全く食べないってわけじゃないけど、集中してると周りが見えなくなっちゃうものねェ……。その点きちんと出来るのかって心配だわァ」
「い、いけるいける、大丈夫だって。近くに商店街だってあるし」
「……じゃあ毎晩自炊したら写真撮って送ること。説得力のカケラもないんだからそれくらいしないとねぇ?」
「えっ」
「あら、いい考えじゃない♪」
「勿論栄養バランスも考えること。……今から本屋行こうか、妻瀬?特別に俺がたっぷり“指南”してあげる」
「……………………な、なるくん!」
「……そういえばアタシ、これから用事があるんだったわァ。じゃあね〜鹿矢ちゃん、泉ちゃん」
「な〜に逃げようとしてるのかなぁ?ほら、行くよ」
「はい……」







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