「えっ。一人暮らし?……鹿矢が?」
「うん、少し前から」
「俺聞いてないんだけど〜……。なんで言ってくれなかったの」
「急な仕事とか重なって、全然片付いてなかったから。……来たら寝床にしかねないじゃない。狭いところで寝かせるわけにもいかないし」
「……俺の寝るスペースだけ空けてくれたらいいよ。鹿矢が寝てるスペースだってあるんだから、そのくらいの広さはあるでしょ」
「そうすると私の寝るスペースがなくなるので!」
「いいじゃん。一緒に寝れば」
「いやいや、さすがにダメでしょ」
「ケチ」
「ケチじゃない」
「……っていうかさぁ、俺だけ知らなかったの?セッちゃんやナッちゃんは知ってる風だったんだけど?」
「そ、それは……。ごめんって……」
「鹿矢の薄情者〜。すごく傷ついたんだけど。ねぇ、どうしてくれるの?」
「ど、どうしたらいいのよ」
「……う〜ん。じゃあ、今晩泊めてよ」
「はい?」
「泊めて、って言ってるの。俺に白状したってことはもう片付いたんだよねぇ?拒否する理由もないでしょ〜」
「まあ一応は……。来るのはいいけど、着替えとかは自分で準備してね。男の人用の服なんて常備してないから」
「……へぇ。まだ誰も泊めてないんだ?」
「泊めれるような状況じゃなかったからね。凛月が一号になるかな」
「一号って。ふふ、なんだか実験台みたいでいやだなぁ……?鹿矢のくせに生意気♪」
「その割には急に上機嫌じゃないですか」
「え〜?全然。俺に黙ってたことはまだ許してないから。今晩は俺にたっぷり甘えてね、鹿矢」
「……甘やかしてね、ではなく?」
「言ったでしょ。俺は鹿矢を甘やかす係だからねぇ。あとでたくさん甘やかしてあげるから、ジュース買ってきてよ」
「仕方ないなぁ」


「…………」
「どうしたの、泉ちゃん?眉間に皺が寄ってるわよォ」
「……あいつらの会話、聞いてると頭が痛くならない?緩すぎるっていうかさぁ」
「あぁ、凛月ちゃんと鹿矢ちゃん?あの子たちって面白い距離感よねェ。アタシ、ついこの間まで付き合ってると思ってたもの」
「えっ。妻瀬先輩と凛月先輩って恋人同士ではないのですか……?」
「そうなのよォ。どっちに聞いても真顔で違うって言うから、こっちが混乱しちゃうわァ」
「付き合ってないのは本当。妻瀬、一年の頃から男関係にはガードが固いから……。それは今も変わらないと思うけど、くまくん相手には距離感がおかしくなっちゃうみたいなんだよねぇ」
「ええと、それは一番に心を許しているからなのではないですか……?【DDD】の時も凛月先輩はずっと妻瀬先輩のことを気にかけていましたし、『Knights』のなかでは一番仲が良いですよね」
「たしかにそう見えるものねェ?……まぁたぶん、泉ちゃんは嫉妬してるのよ。もちろん友達としてなんでしょうけど」
「なるくん。誰が誰に嫉妬してるって?」
「あ、あらやだ。ただの妄想に決まってるじゃない。冗談よ、冗談」
「……妄想なのですか?私は鳴上先輩の説明で納得しましたよ。瀬名先輩は“秘書もどき”の妻瀬先輩を取られてJealousyを感じているのではないのですか?」
「かさく〜ん?ちょっとこっち来ようか」
「ひっ!?い、嫌です!」
「あはは……ごめんなさいね、泉ちゃん。司ちゃんも悪気はなかったのよォ、アタシに乗せられただけなんだから。今回は大目に見てあげて?」


「(う〜ん……、思ってたよりもヤバめの地雷を踏んじゃったのかも。まぁ、『王さま』の次に仲良くなったみたいだし?鹿矢ちゃんと“仲良し”だったのは泉ちゃんだものねェ。……素直に“寂しい”も言えないだなんて、ほんと、損な性格してるわァ)」





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