「おぉ、鹿矢。いらっしゃい。して、何用じゃ?今日はとくに呼び出しもしておらんかったはずじゃが」
「大神くんに用事なんだけど……あ、いたいた。お疲れ様〜」
「おう。俺様に用かよ?」
「うん。この間内見付き添ってくれたでしょ。お礼を渡そうと思って」
「…………内見?」
「あぁ?どうせ吸血鬼ヤロ〜も知ってんだろ。妻瀬先輩が一人暮らしするって言うからよう……俺様が内見に付き添ってやったんだよ」
「本当に助かったよ。予約が取れた時間、ちょうど親の仕事と被ってて……色々調べてはみたんだけど、やっぱり実際に一人暮らししてるひとの意見を聞きたくて。はい、ギフトカード。好きなもの買ってね」
「実際に、つっても始めたてだけどな……。ありがとよ。“物”じゃなくて、“ギフトカード”なあたり妻瀬先輩らしいな?」
「あはは……。私が選んだものより、好きなもの買えるほうがいいかなと思って。便利な世の中になったよね〜」
「…………鹿矢」
「なんでしょうか」
「記憶違いだったら申し訳ないがのう。我輩、鹿矢が一人暮らしするとか聞いておらぬのじゃが」
「……おいおい、もしかして何も言ってなかったのかよ?」
「…………言ってなかったねぇ」
「せめてひとこと言ってやれよ……。見るからに拗ねてるじゃね〜か」
「ごめんって。拗ねないでよ」
「ぐすんぐすん……鹿矢は薄情者じゃ。我輩にはなんの相談もなく……」
「わ、忘れてたとかそういうのじゃないから。家が変わるくらいだし、話すほどのことでもないかと……」
「話すほどの存在でもないのじゃな……しくしく……」
「……」
「お、俺様に助けを求めてんじゃね〜ぞ。こうなっちまったのは妻瀬先輩の責任だろ」
「零くんごめんね、と言ってくれたら少しは気が晴れるかもしれんがのう……?」
「……朔間さんごめんね」
「零くんごめんね」
「朔間さんごめんね」
「零くん」
「朔間さん」
「わんこ……なにやら鹿矢が反抗期のようじゃ。助けておくれ……」
「知らね〜よ。つうか、妻瀬先輩はリッチ〜のこと呼び捨てで呼んでるよな?呼び捨てが恥ずかしいってわけでもね〜だろ」
「凛月はもう慣れただけ。ふつうに恥ずかしいの、呼び捨ては……“くん”付けは呼び捨てでもないけどさ?」
「零くんも慣れじゃろ。ほれ、試しに呼んでみておくれ♪」
「……朔間くん」
「!?そ、それはそれで新しいのう……?」
「(妻瀬先輩って、なんつーか……わりと天邪鬼だよな……)」






prev next