いったい何が起きたのか、誰か説明して欲しい。

一、凛月が泊まりに来た。
二、同じベッドで寝るのはダメだと思って布団を敷いて、凛月にベッドを譲った。
三、夜更かしに付き合っていたけど眠気に負けて布団に潜った。
四、なぜか凛月と一緒に寝ている。

目を覚ましてすぐに視界に映ったのは手のひらで、横になって寝ていたのだろう――べつになんてことない光景なのだけれど。どうやら自分のものではないっぽい。え、じゃあ誰の。とぼやぼやした頭で考えても一人しか思い当たらないわけで。

やけに近くから聞こえる寝息に、あたたかい背中。よく見れば私よりもすらりと伸びた指が誰のものかは明白である。

「りっ…………、」
「んん……」

声を上げたのがうるさかったのか、凛月はもぞもぞと動いて私の首に顔を埋める。
無自覚なそれは心臓に悪い。声が出そうなのをなんとか抑えて私は布団を握りしめる。

凛月は、べつに私だけに距離が近いわけではない。
それこそ衣更くんやあんずちゃんにだってそうだし、『Knights』のメンバーにだって似たようなものだと思わなくもない。

……だから他意は無いと思うけど、暖を求めてこういうことを平気でするだろうなって思ったからわざわざ布団を出したのに!
主人の居ないベッドはさぞかし冷たいことだろう。

「(い、息がかかってる……)」

残念なことにきちんとした“恋人”の居たことのない私はこれが普通なのかどうかもちょっと分からない。
けど、たぶん、さすがにちょっとダメだと思う。もう一人私が居て仮に凛月の彼女だったとしたら、めちゃくちゃ嫌だと思うし。……でも、最終的に凛月だからって許してしまいそうだけど。
――ちがう、そうじゃなくて。

凛月には悪いけど、意識の覚醒してしまった私にこの状況は些か刺激的すぎる、ので、脱出させてもらおう。

私は少しずつ凛月から離れるみたいに動いて、ゆっくり彼の腕からすり抜けようと試みる。――が、暖が逃げていくのは許し難いようで。逃げるなと言わんばかりにとっ捕まえられて、しっかり抱きしめられる。

「(あ、あ、悪化した……)」

無駄な抵抗はやめておけばよかった、と思っても時すでに遅し。
せめて爆速になる心音が伝わらないことだけを祈りたかった、のだけど。

「……ふふふ。鹿矢、すごいドキドキしてる。朝から大変だねぇ……?」

耳元で囁く声は楽しげで。少し低いそれに、色気のようなものすら感じてしまって。もう、今すぐ逃げ出してしまいたいのに身体は動かない。物理的に。
朝は弱いんじゃないのとか色々言いたいことはあるけど、まさか起きてるとは思わないでしょ。

「うるさい……凛月、離して……」
「やだ……。鹿矢あったかいから、離したくない……」

そう言って凛月は眠りへ落ちていってしまう。すぐに寝息が聞こえてきて、会話は強制終了である。

「(寝た…………)」

……凛月は起きていた、というより起こしてしまったらしい。
いつからかはわからないけど、私が動いていたからだろう。いやそれでも悪いことをしたなんて思わないが。そもそも私の布団に潜り込んできたのは凛月だし。

心地良さそうな寝息は、二度寝に誘われてるようにも感じる。……まぁ今日は案件もないし、もう午前くらいサボっちゃおうかな……。とか瀬名にはため息をつかれてしまいそうだけど。

時計を見るに、凛月を起こして学校に行くにはもう絶望的な時間だし、と言い訳をして私は目を瞑る。
ろくに眠れなかったことは言うまでもない。





prev next