黄色に染まった道の上をばふばふと音を立てながら歩いていく。
柔らかくて不思議な感覚だ。ローファーの上にいくつか葉が被さって、私の足が地面から生えているみたい。
「歩くの遅いと思ったら……なにやってるの」
「見て見て瀬名、埋まっちゃった」
「子供か」
先を歩いていた瀬名は振り返って、私に近寄ってくる。そして、なにかと思えば頭の上を払われる。
頭上の銀杏から葉が降ってきていたらしい。
「頭まで被ってるよぉ。まったく」
「ありがと」
銀杏の葉はひらひらと舞って、ぱさりと地面に落ちてしまう。
夢ノ咲学院に入学して初めての秋はあっという間に過ぎ去っていく。
『チェス』に拾ってもらったことは昨日のことのように思い出すことができるけど、瀬名や月永の後ろをついて歩くことはもう日常の一幕になって。
恋やらにうつつを抜かすだろう時間はアイドルへ費やすものと代わり日々を過ごしている。
そんな毎日が、瀬名の言葉を借りれば――“悪くはない”。
「月永どこに行ったのかな。焼き芋誘おうと思ったのに」
「さぁ……。飽きもせず斎宮と芸術談義やらをしてたし、学校には来てたはずだけど。もう俺たちも出ちゃったしねぇ。今日は諦めて明日にしなよ」
「瀬名だってさっきまで月永のこと探してたくせに?」
「……もうすぐ新曲ができるって言ってたから。聞いてやってもいいかなと思ってただけ」
ふーん。素直じゃないね、と返せばノータイムで頬をつねられて声を上げる。容赦ない。私、仮にも女の子なのに。
自業自得だと言わんばかりに気に食わなさそうな表情で隣を歩く瀬名は、今日も綺麗だ。銀杏並木を背景に靡く銀色の髪はふさふさと揺れている。
「瀬名、今日も綺麗だね」
「はいはい。ありがと」
「反応薄いなぁ」
「俺が綺麗なのは当然だから」
誰かを綺麗だと思うことなんて、今までなかったと思う。
たとえば、月が綺麗だとか星空が美しいだとか――風景に対する漠然としたそれはあっても。甘酸っぱい青春映画の中でさえも、面白いと思うことはあれど目を奪われるような感覚は知らなかった。
なにも初めからというわけじゃないし、私は精々瀬名泉という人間を少し齧った程度で、音を共に奏でる月永のほうがその魅力をよく知っているのだろう。
一人でも魅力的だけど、彼らが二人でいる風景が好きだった。
より綺麗で、楽しくて、ずっと見ていたくなる。どんな映画や漫画よりも可笑しな取り合わせで、見ていて飽きないし。他愛の無い会話も喧嘩も、歌っている姿も。叶うなら全部をシャッターに閉じ込めてしまいたいくらいだ。
「月永の新曲、楽しみだね」
「……まぁね。……あ、また葉っぱ乗ってる」
妻瀬、銀杏に好かれてるんじゃない?と笑っている瀬名の向こうで、ぴょこんとオレンジ色が揺れた気がして。
あ、と言葉を溢して数秒後。月永がかき集めた銀杏の葉を被る瀬名を前に、私はお腹を抱えて笑ったのだった。