春に桜を纏う木々は、寒そうな体躯に電球を着込んで冬景色を彩っている。

十二月も半ば。
街は赤や緑、金を基調に様々な色で満ちているけれど、この通りは金一色。行き交う車のライトも相俟って壮大なイルミネーションのようにも見える。

買い物の休憩にと入った喫茶店は運良くそれらが見渡せるソファの特等席。
蠢く人々を見下ろしながら、凛月は表情を歪めた。

「うげ〜……すごい人混み。俺あそこに戻りたくないんだけど」
「うんうん。さすがクリスマス前、どこもかしこも人だらけで疲れるねぇ……」

ふう、と席に腰を掛けながらアイスココアを喉へ流し込んでいく。暖房の効いた場所で飲むアイスドリンクは最高である。

買いたいものは大体買えた。あとは、ドラッグストアでストックの切れたシャンプーの詰め替えを買うだけ。
クリーニングに出していたコートもそろそろ戻ってくる頃だ。受け取って、コンビニで肉まんでも買って帰ろうかな。なんてプチ贅沢を考えていると、ぼすんと凛月がもたれかかってくる。あったかい。重いけど、大きなカイロみたいだ。

「今失礼なこと考えてたでしょ」
「いやあ、大きなカイロだなって……あいたたた」

素直に吐けばどうやら怒りを買ってしまったらしい。
凛月はぎゅう、と身を締め付けるように私の身体に腕を回して力を込める。出る、出る、臓物がぐえって出てしまいそうだからやめて欲しい。

「こうして抱いて暖を取れるのはカイロっぽくもあるけどねぇ?」
「私がカイロだったのか」
「そうそう。ほら、あったかくな〜れ♪」
「振らないで振らないで。あったかくならないからね……」

がやがやと話し声で満ちている店内では少し騒いだところで目立つこともない。褒められたものでは無いと思うけど。
そんな騒がしさもクリスマス前独特というか――皆んなが浮かれている証拠だ。
私と凛月も、きっとそんな空気にあてられているのだろう。いつもよりもどこかふわふわしている気がする。

足元に広がる金色は、まるで光の絨毯みたい。
幻想的な景色を踏みつけようなんてバチ当たりだとも思うが。

数分戯れたのちに凛月はぐりぐりと私の肩口に頭を埋めて、タイツの上を指でなぞる。
擽ったくて声を上げれば、気分の良さそうな表情がこちらを向いた。

「……ねぇ。今日はミネストローネスープの気分だから、材料買って帰ろうね。チキンとケーキも買って、少し早いクリスマスパーティーでもしようよ」
「……どうして当たり前のように私の部屋にくるつもりなのかなー」
「だめ?」
「…………いいよ」

私の脚を這おうとする指を捕らえて、空いている右手で凛月の頬を軽くつまんでやる――つもりが。華麗にとっ捕まえられて、見事に抱きつく体勢になってしまう。

「り、凛月〜…………」
「ふふふ。俺の勝ち♪……抱き合ってると、あったかいねぇ。ずっとこうしていたいかも」
「…………こら。どこで誰が見てるか分からないんだからね」
「え〜。俺はべつにいいんだけど」

仕方ないなぁ、と渋々離れていく手に寂しさを感じながら、乱れてしまった髪の毛を整えて。
ちらりと凛月に視線を送れば不服そうに紅茶を口にしている。揺れる黒髪に外の光が反射して、綺麗だ。
――だから思わず手が伸びてしまって。

「……なに」
「……凛月が離れていくの、寂しくて。つい」
「…………自分でだめって言ったくせに」

やんわりと髪に触れれば、凛月は私から視線を逸らす。
恥ずかしいのか、僅かに覗いている耳はほんのり赤い。可愛い、という感情が先行してそれ以上の言葉は出てこない。

追い討ちをかけたいとかではなくて――そんな凛月を前にすると、悪戯心が働いてしまう。まぁ仕返しに近いのだけど。
髪から、頬へ。撫でるように指を滑らせれば赤い瞳がこちらを睨みつける。

「あはは。凛月、可愛い」
「……っ、あのさぁ。調子に乗らないで」
「わ、」

これ以上自由にさせまいとばかりに手を掴まれて、視界は急に暗転する。
感触から言って、凛月のアウターに埋もれているのだろう。
決して穏やかではない心音につられて、自分の頬が熱くなっていくのが分かる。

「…………鹿矢。帰ったら覚悟しててよ」
「な、なにするつもり」
「一晩中泣かす」

雑音の奥で、クリスマスソングが揚々と流れている。
わいわいと楽しげに話す声が聞こえる。
それらを全部差し置いて、凛月の声だけが聴覚を麻痺させていく。

「……明日学校ですけど。凛月さん」
「知ってるよ」
「……サボらないからね」
「うん、頑張って」

絶対に寝かせないけど、と耳を貪るような勢いで注がれた声は、熱を帯びていた。






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