凛月はいつの間にやらオムライスを食べ終えていたらしい。すっからかんのお皿をキッチンへ運んで、セッちゃんのアイス食べようよ、と冷凍庫を開く。
同意するように身体を起こせばドラマはエンドロールを迎えていた。というか、そもそも流れていたのは映画のようだった。

続けて、天気予報が始まる。今晩と明日の天気を知らせる短縮版である。
どうやら今からは快晴で、星もよく見えるのだという。

「(今日、新月だ)」

カーテンを開いてベランダに出れば、いくつかの星が見える。その中に月がいないのはちょっと寂しい。

「たそがれちゃってどうしたの」
「今日は月がいないなって思ってたところ」
「それは寂しいねぇ」
「ねー」

凛月が持ってきてくれた“瀬名アイス”を頬張りながら、空を見上げる。
そよそよと吹く風に揺られてどこかの家の、風鈴の音が聞こえる。ああ、夏だなぁ。

――そういえば。夏になったら夜通しで、天体観測がてらお月見をしようなんて約束をしたことを、凛月は覚えているだろうか。
今日は叶わないけれど、半月もしたら。予め天気予報もチェックして誘ってみるのもいいかもしれない。なんて思いながら、アイスを頬張る。ふだんは手の届かない高級な味が舌の上に広がって幸せだ。

「セッちゃん印のアイスなんてレアだよねぇ。食べ終わる前に写真でも撮っておく?」
「撮る撮る。なるくんと司くんにも今度自慢しよう」
「ふふ。ナッちゃんはともかく、ス〜ちゃんは羨ましがりそう」
「あはは、言えてる。はい凛月笑って〜」

ポケットから端末を取り出してレンズを向ければ、ひょいと私の手から奪ってにこりと笑ってみせる。

「鹿矢も入るの。ほら」
「私?私はいいよ」
「もらった張本人でしょ。……それにたまには鹿矢も映らないとねぇ。ほら、俺のアイス持って?」
「う、うん」

自由になったほうの手で私を引き寄せて、ぱしゃり。ち、近い。ほんとに今更だけど。いやいやそれよりも待って、これ私が二つアイス食べたみたいになってない?
満足気な凛月の横顔はいつかの晩を彷彿とさせる。少しだけ、大人びたようにも思う。

「はい、まずはセッちゃんに送信〜♪」
「あ。こら!」

数分後、私のカロリー配分について述べた長文が返ってきたのは言うまでもない。






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