世とか人間とかそういうの、主語が大きすぎてむず痒い。

「私、自分は自分だと思ってるので」
「おぉ、案外自己主張の激しい奴じゃね〜か。そういうのは嫌いじゃね〜よ」

目の前の先輩は、そういうスケールの大きな話をよくする人だと思う。先生みたいに、親みたいに、諭すような口ぶりで的確に意見を述べていく。正解の答案用紙を配って丁寧に解説をしてくれる。
不思議と退屈しないのはちょっと腹立たしい。だって、ひとつしか変わらない高校生だ。

大多数に属しているみたいに言われるのが、なんとなく気に食わなかった。私は私の意思でやってるんだよっていうのに、それも含めて「大衆はそういうものだ」って、手のひらで踊らされてるような感覚で。

「……褒めてるんですか?」
「褒めてるよ。夢ノ咲じゃ、“そういう雰囲気”があれば乗る……腐敗しきった流れに乗るやつがほとんどだしな。お前のとこの『バックギャモン』なんか特にそうじゃね〜の」
「否定はしないですけど。瀬名とか、真面目にやってるひとだっています」

百歩譲って私がひとまとめにされるのはいいとして。頑張っている人が、埋もれてしまうのはイヤだった。
私が噛みつくみたいに言うものだから、朔間先輩は鎮めるように優しい口調で諭す。

「うん。だから大切にしろよ、そういう奴を。……お前が『バックギャモン』に居るのもそれが理由だろ?」
「……それは、もちろん」
「俺としてはそんな“まじめ”な鹿矢ちゃんが、腐っていかないか心配だけどな?まぁ、よくこの一年夢ノ咲でやってこれたよ。よ〜しよし、この俺様ちゃんが褒めてやろう♪」
「なんですかもー」

わしゃわしゃと髪のセットが崩れるくらいにひとしきり撫でられて顔を上げれば、朔間先輩は楽しそうに笑っていた。

私の先輩は、ちょっと変だ。
一般的には、博識で、何でもできる自由奔放なスーパースター。話せばひとたびみんなが好きになる、頼もしくてカッコいい朔間零さん。
私にとっては、そんなに長い付き合いでもないしずっと一緒にいるわけでもない、たまにふらっと現れて、てきとうな世間話をしながらお茶する、派手でオラついてる先輩。

褒められるのは、ちょっと嬉しいなとか思ったりしなくもない。





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