落日 #4 after


「鹿矢?」

繁華街を出てすぐ、ぴょこんとオレンジ色の髪が視界の端で揺れた。
ライブを観終えて、めちゃくちゃな感情を抱いているところに日常の象徴のような月永が現れたので、感極まって泣きそうになってしまう。
それをぐっと堪えて、返答する。

「……泣きそうだけど。何かあったのか?」

直感で生きているからか、月永には私の包んでいた感情とかが丸見えらしい。恥ずかしいな。
正直、自分がいま抱いている感情をよく分かっていない。
すごかった、とか、ちょっと寂しかったなとか、小さな子どもが絵本を見た感想のような言葉しか出てこない。

ああ、絵本の世界に入っていた心地だった。
そこからひとりでに抜け出してしまったみたいな感覚。

「……平気ー。ちょっと、朔間先輩たちのライブ観てきて圧倒されたっていうか」
「へぇ……?」
「月永こそどうしたの?こんな時間にうろついてたら危ないよ」
「鹿矢には言われたくないんだけどな……。セナ、おまえが真夜中に繁華街歩いてたって知ったら怒るぞ〜?」

たしかに、瀬名には夜遅くまで残るなとかよく言われるし、伝わると面倒である。心配してくれているのは分かるのだけど。

「瀬名には秘密にしておいて……もうこれっきりにするから」
「仕方ないな〜……。セナには悪いけど、秘密にしててやるよ」
「ありがと。そういえば、月永はもう帰るところなの?送っていこうか?」
「……むむ。セナはおれのこと子どもみたいな扱いするけど、鹿矢は彼女みたいな扱い方するよな。おれだって男の子なんだぞ!」

ぷくぷくと頬を膨らませて月永は腕を組む。
容姿も相まって可愛いな、と思うけれど、ステージに立っているときはカッコいいと感じることも多い。
そのギャップもまたいいんだよね、なんて思っているのは秘密だ。

「ごめんごめん。でも月永のほうが家近いでしょー」
「それはそうだけど!なんかムカつくから今日はおれが送るっ!」
「そう?じゃあ、お願いします」
「ふふん。任せろ〜!」

夜中の道を行進するみたいに二人で歩いていく。
月永の鼻歌を聴きながら、時折「霊感(インスピレーション)が湧きあがるっ!」なんて言うから寄り道をしながら。
親に朝帰りを怒られてしまったのは、言うまでもない。





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