木陰で、朔間先輩が、寝ている。
白雪姫かと思うほどの真っ白な肌に、艶やかな黒い髪。身長はだいぶあるので、細身とはいえ華奢だとは思わないけれど。

「び、美……」

思わず溢れでた言葉があんまりだったので、ばっと口を塞ぐ。
私が男の子で、朔間先輩が女の子だったのなら、これが運命の出会いだーなんて思っていたのかもしれない。御伽噺の王子様とお姫様みたいな。あれ、それなら私が王子様になるのだろうか。自分でも何を言っているかちょっと分からない。

そよそよと吹く風が、朔間先輩を撫でていく。
私は時間が止まったみたいにそれをじっと見つめて、やっぱり綺麗だなあと噛みしめる。
普段は俺様な言動や雰囲気でチャラいなぁオラついてるなぁと思うけど、静かにしていると雰囲気が全く違う。
どっちが好きか?と言われると分からないけど、いわゆるギャップにキュンとくるとかいう女子の気持ちも分からなくもない、という感情である。

それでも、やっぱり風は体を冷やしてしまうから、ブレザーを脱いで、起こさないようにふんわり掛けておく。
当たり前だけど私のブレザーなんかじゃ足りない。
役に立つとしてもほんの少しだと思うけど。

「……いい夢を、朔間先輩」

海外を飛び回ってばかりで日本にいることがまず珍しいから、こうして休息をとる時間は彼にとって貴重なのだろう。
久しぶりの先輩と話すことができないのは少し寂しいけど、彼の邪魔になるよりは全然良い。

……ちょっとだけ、目を覚まさないかなあなんて思ったけど。
神様はそんなに優しくないから。あと少しだけ目の前で眠る魔王様を、眺めさせてもらおう。




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