「私は」
「名前姉?」
反応がないのを不思議に思ったのか、彼女は私の隣に腰掛け、覗き込むように顔色を伺ってきた。
「なぁ、本当に大丈夫か?」
「え、あ…うん。大丈夫。」
「そうか?ならいいけど!最近会えないから心配してたんだぞー。名前姉の家に行っても入れてもらえないし、連絡しても忙しいってさ。」
「ま、元気そうなら良かったけど!」と本当に嬉しいのか、こちらが眩しくなるような満面の笑みで笑った彼女は、人を間違えたわけでも、名前を呼び間違えたわけでもなさそうだ。ということは、'こちらの世界'にも'私'が存在しているということなのか?
背中に嫌なものが伝った気がした。同姓同名で顔も似ているなんてまるで―――
「パラレルワールド…」
「ん?なんだ?なんかのアニメの話か?」
「い!いや、違うの…あのさ、」
せっかく'この世界'での'私’の知り合いに会えたのだ。何か突破口が見つかるかもしれない。身体がこわばるのを感じながら彼女に話をしてみた。
「私ね、記憶喪失みたいなの。」
少し噓を交えながら。
「えぇー!?じゃあ名前姉はボクとの思い出も、今までの記憶もなくなったってことなのかー!?」
「う、うん…名前とか覚えてる人はいるんだけど、その人との思い出とか、私が過ごしてきた思い出でとか思い出せないの」
「そ、そうなのか…自分の名前は覚えているのか?」
「あ、えと…下の名前だけ。」
「…名前姉は、苗字名前って名前で、ボクとはボクが小学生くらいの時に出会ったんだ。」
彼女に聞いた自分の名前は聞き馴染みのある私本来の名前だった。そしてやはり彼女と'私'は知り合いだったらしい。
にしてもやはりパラレルワールドというものが存在している…?いやそもそも'原作'に'私'という存在はいなかったはずだ。
「名前姉、病院に行こう?」
「え?」
「だってそんな、記憶ないままふらふらしてたら危ないよ。混乱して怖かっただろうし、だからここに座っていたんだろう?」
「あ、うん…でも!私気付いたら街中にいて、手ぶらだし、自分のこと分からなくて、家への戻り方も知らないし…」
「そうだな、手ぶらってことは身分を証明できるものも持っていないしな。よし!ボク、名前姉の家知ってるし、一緒に行こう!!」
そう言った彼女は凄く頼もしく見えたし、少し安心した。こんな広い街で彼女に出会えたのは奇跡だ。
「あ、ありがとう…えと世良さん?」
「ちょ、名前姉には名前で呼んでほしいな〜。ボクの名前は'覚えて'いるんだろう?」
「!?…真純ちゃん?」
「そうそう!いつもそう呼ばれていたんだ〜」
嬉しそうに笑う彼女に私は少し胸が痛んだ。
だって、彼女の知っている'私'は私じゃないから。