その映し出された名前に頭が痛くなりそうだった。'私'の交友関係どうなっているのか。電話に出るわけにもいかず、携帯が鳴っていてもとりあえず無視していたが、彼女が戻ってきたら中々ややこしいことになりそうだなと思い、そのまま電源を落とした。
「ごめんな〜、ちょっと知り合いから頼まれごとしちゃって〜」
タイミングよく彼女が戻ってくる。
「少し外出してもいいか?病院はボクが戻ってきてから一緒に行こう」
彼女はそういうと急いでいるからとそそくさと出ていく。「いいか、絶対ここから出るなよ!?誰か来ても無視しろよ!?」と言い残して。まぁ確かに記憶喪失の女が外でウロウロしていたら警察に職質されかけないし。私は彼女に苦笑いを返した。
警察といえば、と私は手に持っていた携帯を見つめる。先程の電話をかけてきた相手、確か警察だったっけ。記憶が曖昧だが主人公が信用していた気がする。私は折り返すか迷った。
―――あの人は本当に名前姉、なのか?
彼女の家を出てから静かに部屋に仕掛けた盗聴器を耳にかけた。ボクが'アメリカ'にいたって事実はない。実際はイギリスだし、名前姉には事実を伝えていたから思い出したとしても'イギリス'のはずなんだ。なのに何故か確信をしているような言い回しだった。記憶喪失と言っていたから、記憶が混沌としているのだろうか。
性格はあまり変わらないような気がするが、纏う雰囲気や、話し方、仕草が微妙に違うような…
だがここの顔&指紋認証システムはクリアしていたし、間違いないと思うんだけど、何かが違う。何かとは言えないのだが。
―――ジジッ
盗聴器のノイズが耳に響いた。
『…とりあえず、かけ直してみようかな…』
彼女は不安そうな声で'誰か'に電話をかけるみたいだ。どうして、そんな不安そうな声なんだ?知らない奴、なのだろうか。彼女の携帯の発信音が鳴り響く。
『もしもし…あ、えと、ごめんなさい。…あの実は、本当に本当のことなのですが、私…記憶喪失になってしまったみたいで。…あの、私、あなたとどんな関係ですか?知り合いですか?…本当なんです。あなたのことも、思い出とかも全て分からないんです。ごめんなさい……!??え!今から!?あ、あの!ちょっと!!!』
焦ったような声のあと、虚しく響く携帯音にこちらも苦笑いだ。相手が誰かは知らないが、名前姉のことを心配した'誰か'が今から会いに来る、ということだろうか。とりあえずボクは少し名前姉のことを調べようと盗聴器はそのままに、そのマンションから出て行った。途中、白い車がもうスピードで駆けて行ったが気にも留めなかった。