「生きていること」


「名前さん、本当ですか。記憶がないって」

私は今金髪青目のイケメンに迫られている。いや、言い方に語弊があるな。問い詰められている。
彼女が一旦家から出た後、'私'との関係が気になり彼に連絡を取ってみたのだ。電源を切っていたため不在着信がかなり残っていた。あまりにもこの世界の登場人物と関わり過ぎている'私'。どういう人なのだろうか。

『もしもし…』

『名前さん!!!電源切られていて、心配したんですよ!?』

『あ、えと、ごめんなさい。…あの実は、本当に本当のことなのですが、私…記憶喪失になってしまったみたいで。』

『…は?』

『…あの、私、あなたとどんな関係ですか?知り合いですか?』

『……にわかに信じがたいですが、本当なんですか。』

『…本当なんです。あなたのことも、思い出とかも全て分からないんです。ごめんなさい……』

『いや…分かりました。今からあなたの家に行きますのでそこで大人しく待っていてください。話はその時に。』

『!??え!今から!?あ、あの!ちょっと!!!』

そうして電話は一方的に切れた。少し悲しそうな声だった気もするが、冷静な対応なのでは、かとも思った。どういう関係かは知らないが、親しい人が記憶喪失なんて私だったら結構ショックを受けて、彼や彼女みたいに対応できない。どう接していいか分からないし。
そもそも彼はどうして私が家にいることを知っているのだろうか…。考えるのはやめておいた方が良さそうだ。

そうして10分程経った頃だろうか、彼は家にやって来て冒頭に至る。私にとって初対面である彼はまぁ、かなり顔がいい。作中の中でもイケメンイケメン騒がられているのが分かる。
彼はそんな私の考えに気付くはずもなく、眉をひそめ、不安そうだ。

「記憶がなくなる前後の記憶もなくて…」

「……じゃあ、本当に何も覚えていないんですね。僕のことも、'彼'のことも。」

彼、とは誰だろうか。一瞬、先程写真の中にいた男性のことが頭をよぎった。いや、まさか。この人と関わりなんてあっただろうか。私はあやふやな記憶を思い出していくも、やはり彼のことは何も覚えていなかった。何せずっと追っていたわけでもない原作。私は何だか溜息をつきたくなった。
彼は私の悩ましい感情を読み取ったのだろうか。綺麗な顔立ちを歪ませ、悲しそうな、泣きそうな顔をしていた。その表情に心臓が締め付けられる感覚がした。絶対に忘れてはいけない記憶を忘れてしまったような、酷いことを言ってしまったような感覚。なんで、どうして。

「本当にごめんなさい」

私が'私'じゃなくて――自然とそんな言葉が出てきそうになってしまった。
なんで私はここにいるのだろうか。自分の生きてきた世界に戻りたい。家族に、友人に、彼に、会いたい。ずっと抑えてきた想いが溢れそうになる。何故だか分からないが、彼の表情を見たときに私は'ここ'にいてはいけないんだと思った。'私'じゃないとこの世界は回らない。あぁ、頭が痛い。

「名前さん!?」

突然、私の視界が暗転した。