アメジスト
海兎から飛び出てきた人魚はサンジに思いきりぶつかると、だいぶ大袈裟な反応で人間がいることに驚いていた。
「消化されそうな所助けてくれてどうもありがとう!!!私海獣に食べられ易くって!!かれこれもう20回目くらい」
「何かお礼をしなくっちゃ!!そうだ!タコ焼き食べる!?」そう言ってケイミーという人魚の少女は一味に既に馴染んでるようだった。可愛らしい子だなとナマエも感じており、顔には笑みが浮かんでいた。人魚、か。'懐かしい'人が思い浮かぶ。
ナマエが物思いに耽っていると、サンジがなにやらずっと騒いでいる。憧れだった人魚に出会えたからなのかずっとメロリン状態であるサンジのその姿にあんな人だったっけ?と目を見開く。
「女の子に対して基本あんな感じなのよ」
「え?あ、そうなんですね・・・ナミさんとかにもそんな感じでしたね、そう言えば」
「そうそう。」
なるほど。ということは私は気づかれていないのか、そういう対象ではないのか定かではないが、ナマエはここでの立ち振る舞いに気をつけねばと思っていた。よく男に間違われるため、そう言った扱いには慣れっこである。それならそれでその立場を上手く利用しなければと感じた。
「でもナマエ、私とロビンは気づいているからね?」
「え、あぁ!私は全然気にしてないですよ?よく間違われるんですよね〜」
ナミの発言に対してナマエはサンジが気づいていないということに確信を持った。まぁあんな風に接せられた方が困るためある意味良かったかもしれない。ナミはそう言う意味じゃないんだけど、と眉を寄せる。仮にも女の子なのだ。ナミとしてもちょっとくらい色恋の話や、世間話を同世代としたいのにと思ったが、まぁ仕方ない。
ふと騒がしい方へ目を向けるとなにやら知り合いの人が人魚だったらしいが、皆だいぶ失礼なことを言っているのが分かる。それに苦笑いしていると、船の隅っこの方で暗い雰囲気を醸し出している'ヒトデ'を見つけ、近づいた。
「・・・君は誰?」
「おめぇ・・・おれ、おれ、」
「私はナマエ。よろしくお願いします」
「ナマエ??なんか聞いたことのある名前だな・・・おれはパッパグってんだ!」
そう言って口を開いたのは明らかに'ヒトデ'だ。ヒトデって喋れるっけ?と疑問に思うもなにやら可愛らしい雰囲気を出しているそのヒトデに胸がきゅんとする。ナマエは可哀想だし、可愛いしという思いからか、そのヒトデを腕に抱えて、輪の中に入っていく。
騒がしい自己紹介を終えるケイミーとパッパグ。パッパグは有名なデザイナーらしく、そのファッションは魚人島でも流行っているらしい。確かにケイミーが着てるTシャツは素敵だ。ナマエは内心いいなーと思いつつもそんな服を買ってる暇なんてないかと考えを放棄した。一段落ついたところでナミが声をかけた。
「でもよかった。私達今ちょうど進路に困ってて、聞きたいことが・・・」
「おいナミ!!タコ焼きが先だぞ!!ナマエも食べたいだろ!!?」
「え!タコ焼き、、確かに食べたいですね・・・」
「ちょっと!ナマエまで!」
「だよな!」
そういえば最近きちんと食べてない気がするなぁとお腹をさすってみた。この船に乗って食べたものと言えば、サンジが作ってくれた特製BBQのお肉だ。もちろん美味しかったが、'海賊'の船に乗る時は出されたものは基本食べないのだ。信用を得るために無理して食べたこともあった。それでも出されたものはパン一欠片だったり、スープだけだったり、お腹を満たすものでは無い。
もしかしたら初めてかもしれない。'一人で生きていく'と決めてから、海賊船に乗ってきちんとした固形物を食べたのは。そう思い、ナマエはサンジを見つめた。あの時はなんだかとっても食べたくなってしまったのだ。本当にここは、いい人ばかりなんだろうな。
「ん?どうしたんだ?」
「いえ!なんでもありませんよ!」
胡散臭い笑顔を浮かべたナマエにサンジは訝しむように眉を上げた。どうもこいつのこの顔は好きになれないなと。なんだか、'距離'を置かれているようで。多分その通りなんだろうが。
するとケイミーがはっちんという人物にかけた電伝虫から何やら不穏な声が聞こえてきた。
「おーその声ケイミーかモハハハ・・・わいが誰だかわかるかい?ハチじゃないぜェ〜!!!?」
「えーー!はっちんじゃないのーー!!?」
どうやらトラブルのようだ。はっちんという人物は'タコの魚人'らしく、はっちんを売り飛ばす為にマクロ一味が'トビウオライダーズ'と呼ばれる人攫い屋と手を組み、捕まったらしい。
電話口からでも分かるはっちんの苦しそうな声と、殴るような音が響いた。
あぁ、人間はやはり醜い。切られた電伝虫を強く睨みつけた。海賊も海軍も世界政府も、みんなみんな――
嫌な記憶が蘇る。
『大人しくしろっ!』
『なんだこの貧相な身体は、よッ!』
『どうせ誰も助けてくれねぇよ』
ナマエはぎゅうっと胸が締め付けられ、自分の拳を胸の上へと置いて深呼吸する。落ち着け、大丈夫。
ふぅと息をつくと、どうやら一味と話がついたのか、はっちんを助ける代わりに魚人島への行き方をケイミーへと尋ねていた。なるほど、ただ助けるだけではケイミーやパッパグが遠慮してしまうが、代償があることによってそれが軽くなるもんな。
こういう考え方は結構好きだ。それでもやっぱり、ここの人は優しいんだなとナマエは感じていた。
「はっちんの救出手伝ってくれるの!?ルフィちん」
「いいけど、誰だはっちんて?」
「私が働いてるタコ焼き屋の店主!!世界一美味しいんだよ!!」
「そりゃあ一大事だ!!!野郎共!!!命に変えても'タコ焼き'を救出だ!!!」
助けるものが違う気がするが、一味の優しさというか、お人好しさにナマエは良心が痛んだ気がした。ここの船は暖かすぎるんだ。気が緩みそうになる。
「ねぇ、ナマエはシャボンディ諸島行ったことある?」
ナミに突然声をかけられ肩がビクッとした。はっちんが捕まったとされるのはそこの44番GRから東へ5kmのトビウオライダーズのアジトだ。シャボンディ諸島、か。街の雰囲気は素敵だが・・・
「ありますよ。雰囲気はとても素敵なところなんですが・・・世界のいいところと悪いところが混じっている場所ですね。」
「・・・そうなの。ナマエは一体、」
そう言ったまま口を噤んでしまったナミにナマエは微笑みかけた。あぁ、本当に'優しい'。気になるよねそりゃあ。なのに色々考えて、聞かない方がいいのか、でも心配なのか、その顔色からナマエは全てを読み取った。
「私、この船好きになりそうです」
「え?」
「凄く暖かくて、こんな見ず知らずの盗人野郎なんかを乗せてくれて、それにケイミーさん達まで助けようとして」
「・・・」
「でも好きになっちゃダメなんです。'海賊'は。だから――」
そう言ってナミにだけ聞こえるように、内緒話をするかのように、
「私を受け入れないでください」
そうしたら、誰も傷つかなくて済むから。