パール




「とうとう来たんだ!ここまで!!!」

そう言いながら興奮したようにルフィは両手をあげた。各々感慨深いものがあるのか、その気持ちが思わず吐露される。
名前もギュッと拳を握った。例に漏れずナマエも思うことがあるのだ。この向こう側にはきっと'ヤツ'がいるはずだから。

「世界をもう半周した場所でこの壁はもう一度見ることになる……
その時はおれは'海賊王'だ!!!」


ルフィはキラキラとした自信に満ち溢れた顔で言ってのけた。眩しい。中々に訳アリの海賊団ではあるし、各々辛いこともあったのかもしれないが、こうも真っ直ぐだと心配になる。まぁ会ったばかりの海賊だ。情けも親しみも何もいらないか。どうせ自分は魚人島で降りるつもりだ。
ナマエはその眩しさに少しばかり自分が感化されたのかと思うと、'海賊旗'を眺め、眉を寄せた。
ルフィが歯を見せて笑っていると、

「充分に警戒しなきゃ、ここはもう'海軍本部'と世界政府の聖地
【マリージョア】のすぐそばよ…!!!」

ナミが気を引き締めるように一味に喝を入れる。一味はそれでも高揚しているのか明るい雰囲気だ。ナマエはそれよりもナミの言った言葉にどす黒い何かが腹を染めるように蠢いたのを感じた。海軍、世界政府、'マリージョア'。


『ナマエ、おめぇは'おれ'から逃げられねェよ』

『来るな!ただ逃げることだけ考えろ!!』

『その生意気な目ェ、仲間でもねぇくせに』

『お前は'その実'を食べた時点で利用される運命だ。それが嫌なら――』


「ナマエ?」

ハッと気がつくとナミが心配そうに顔を覗き込んでいた。危ない。一瞬呑まれそうになってしまった。自分の中に抱えてい、暗く、黒い、嫌な感情。周りは既に散らばっており、ボーッと突っ立っているのは自分だけだ。ナマエは慌てて自分を取り繕う。

「すみません!ボーッとしてました!あまりの壮大さにビックリしちゃって!!」

明らかに慌てている様子に溜息をつく。出会った時から何かを抱えているとは感じてたけど、先程の瞳は、黒く光をなくし、ナマエの肌白さも相まってよりその黒さを引き立てていた。出会って間もないが、自分よりも年下か同世代の'女の子'があんな目をするなんてただ事ではないはずだ。
海賊なんてしていたら、酷く辛い環境にいた人も何人も見てきたし、自分も然りだが、ここにいる奴らなんかは腹に逸物抱えているやつばかり。変な詮索はしない方がいいんだろうけど、それでも何かの縁だ。心配である。


「ねぇ、ナマエ――」

何かを聞こうとナミが口を開いた時、

「ナマエー!!!お前も来いっ!」

そう言うや否や肌色がナマエの腹に巻き付く。二人はえ?と顔を見合わせたのもつかの間、勢いよく引っ張られる感覚と、その強い圧迫感にナマエは内蔵がギュッと締めつけられた。


「はぁ、ぐっ…ケホッ…ルフィさ、ん、急に!やめてくださいッ」

「しししッ!わりぃ!!」

その圧迫感から解放されると、ルフィはナマエが落ちないよう腰に手を回したまま、悪びれるでもなくいい笑顔で謝ってきた。んこの!麦わら野郎ッ!!と内心で思うも平常心平常心。

どうやら自分がボーッとしてる間に魚人島に行く為の方法を探しに海底へ潜るらしい。こいつら魚人島への行き方も知らないのか?と行き当たりばったりな一味に「乗る船、間違えたかな…」とボソリと呟いた。ルフィは聞こえていなかったのか、「んじゃ、行くぞ!」とナマエを腰脇に抱える。

「ちょ!ルフィさん!!危ないって!!!」

「ん?怖ぇのか?じゃあ、」

不安定な上にわりと屈辱的な持ち方に思わず文句が垂れる。人の一味に口出すのはあまり好きではないが、この際魚人島の行き方とか教えるからやめてくれと切に思ったが、ルフィは何を勘違いしたのかナマエを横抱きにする。

「ルフィさんんん!?」

「これなら文句ねぇだろ?」

近くなった距離に些か血流が早くなるのが分かった。ナマエは'そういう'耐性が全くないのだ。ルフィの発言にそうではない!と声を大にして言いたい。
それでも遅かった。ナミも何やら甲板で文句を言っているのが分かるが、ルフィは気にするまでもなく、柵に足をかけると海底へ潜る為の'シャーク サブマージ3号'へとナマエを抱えたまま乗り込んだ。








海底散策はまぁ特に収穫もなく、ちょっと強面な生物がいて食われそうになったくらいだ。それはそうだろうとナマエは溜息をつく。潜水艦の中でブルックと船長が騒いでる中、ナマエはじーっと小窓から海底を眺めていた。暗くて冷たそうな、静かなその海にざわざわしていた心も静まったような気がした。


大きな水飛沫と共に海底から上がると、空の眩しさに目を細めた。

「ぶはーーっ!!出たぞ〜〜!!」

「おかえり、ごくろう様!」

「だめだ全然海の底も見えねェや!本当にあんのか?魚人島!!」

「ヨホホ!潜水艦初めて乗りましたー」

「もっと下なら着く前に死んじゃうわ」

「'記憶指針ログポース'は確かにこの真下を指してるんだけど。困った…ローラ達にもっと話を聞いとくんだったわ…」


どうやらここで行き詰まってしまったらしい麦わらの一味にナマエはこれは手助けしてあげないとなと思い、ナミに声をかける。船に乗せてもらっている身なのだ、自分の'意地'ばかり張ってないで、先に言えば良かったと少し良心が痛んだ。

「ナミさん、魚人島の行き方なんですけど――」

「おあーー!!!さっきの奴だ!!!ついて来た!!!」

ザバァとこれまた大きな水飛沫の音にナマエの声はかき消される。そこから現れたのはサニー号と同じくらいか、それよりも大きい海兎だった。ナマエは素早くその拳に'覇気'を纏う。

だが、それよりも早くルフィが構えていた。

「海の上でおれに勝てると思うなよ!

'ゴムゴムの'〜・・・''回転銃ライフル''!!!」

勢いのある打撃音に海兎は一発で仕留められた。ナマエはその様子に覇気を纏うのをやめた。さすが'麦わらのルフィ'だ。動きも速いし、パワーも強い。

すると海兎から何かが吐き出される。

あのシルエット、
あの、'尾ひれ'は――

まさか、まさか、


「人魚!!!?」