船を進めると前方に檻がぽつんと立っており、何やら怪しい雰囲気である。それにあの真っ黒いシルエット、なんか見覚えがある。ケイミーがそう言えば'はっちん'と呼んでいた。まさかな、とは思った。
ケイミーが声をかける。どうやら怪我はしているかもしれないが、命に別状はなく無事らしい。だが、僅かに一味の様子が可笑しいことにナマエは首を傾げる。
「・・・どうしたんですか?」
「いや・・・聞いた声にあの珍しいシルエット・・・おいナミどうだ」
「うーん・・・怪しいっていうかほぼ・・・・」
ゾロはちらりとナマエを一瞥し、険しい顔をしていた。何かトラブルだろうか。同じようにナミも眉間に皺を寄せ、警戒を露わにしている。1人、ルフィだけはきょとんとしていたが。
「聞いてみよう」
サンジが一言呟いた後、
「おい!!!'アーロン'は元気かァ!?」
'アーロン'。この人は確かにそう言ったのだろうか。ナマエは目を見開いてバッと檻の方を見た。するとその人物からはやはりというか、'アーロン'の所在が分かるようなことを述べたのだ。間違いない。あそこにいるのは、'ハチさん'だ。
何故すぐに気づけなかったのだろうか。ナマエは唇を噛み締めた。
「アーロンとこのタコッパチ〜〜!!そうとわかりゃおれ達はお前なんか助けねェぞ!!!」
そのルフィの言葉に、ナマエはショックを受けた。ナミの故郷で'アーロンさん'は暴れたらしい。きっととても残酷で、無慈悲で、最低最悪のことをされたのだろう。あの人はそういう人だ。魚人と人間にある壁は、どうにも崩れそうにない。だがルフィはハチさんのタコ焼きに惹かれていて、でもナミの故郷を、ナミを傷つけた人だし、となんともルフィらしい理由で迷っていた。
それにナマエは苦笑いするも、決意する。
「ナミちんっ!!」
「ごめんねケイミー。あんたの友達がまさかあいつとは思わなかったから」
「そんな・・・じゃあ救出は手伝って貰えないのね・・・・・・!?」
「ニュ〜〜!!!ケイミー!!それでいいんだ!!そのまま帰れ!!これは罠だぞ!!」
ケイミーは2人にそう言われるも頑なにそれを断り、助け出すと言い張る。ケイミーはそんなに力もないだろうに、その健気で強き心に胸が締め付けられたナマエは彼女に近づいた。
「ケイミーさん、私がお手伝いいたしましょう」
「ナマエちん!!?」
「「「ナマエ!?」」」
「おおお!!おめーは、やっぱりいいやつだなぁ!!!」
おろおろと涙を流すパッパグの小さな頭をナマエはぽんぽんと安心させるかのように撫で付けた。すると後ろからパシりと腕を掴まれる。視線を向けると険しい顔をしたゾロがいた。どういうつもりだと訴えてきているような目だ。ナマエはそれに至極、冷めた目を向けた。
「私は麦わらの一味ではありません。よって、あなた達の事情は知り得ません。ナミさんは'アーロンさん'達に酷いことをされたのかもしれません。お気持ち、分かります。――それでも私は、その'アーロンさん'率いる魚人の方々に助けていただいたことがあります。
だから、今度は私が――
ナミさん、ごめんね」
全てを言い終えたナマエはゾロに掴まれた腕を振りほどき、悲しそうな、寂しそうな、暗く深い冷たい瞳を向けた。ゾロはそれにぞわりと何かが走った気がした。こいつの目はなんなんだ。何を見てきたんだ?
一味はその異様な雰囲気に息を呑んだ。
「ケイミーさん、行きましょう」
「う、うん・・・」
ケイミーとパッパグもなんだか居た堪れない空気感に気まずそうに一味を見回したが、ハチを助けたい気持ちが勝り、深呼吸するとナマエと同じく前を向いた。
「下にはマクロ一味がいるかもしれません、私が先制しますので隙を見てハチさんを助けてあげてください」
「分かったよナマエちんっ!」
「任せろっ!」
ナマエはそう指示を出すと、海の上にも関わらず、船の柵を飛び越えた。その姿に悩ましげだった麦わら一味もぎょっと慌てて驚き、ナマエの後を見るべく、柵に駆け寄った。
ナマエは一つの氷の塊のようなものを取り出すと、凛とした声でその'技'を放った。
「Robbed―
パキパキと水が凍る音が辺りに響き渡り、その周辺には冷気が漂っていた。オリジナルよりも規模は小さいが一味が何度も対峙した海軍の――青雉の技だった。
「あいつ・・・!青雉の技も盗んでたのかよ!」
「底が知れねぇな・・・」
ナマエはその足場にストンと降り立つと、下の海で驚いているであろうマクロ一味ににっこりと笑いかけた。そして再び空に高く跳躍すると、その勢いのまま脚に覇気を纏い氷ごと踵落としを決める。
氷は勢いよく割れ、波をも割る強力な力技。その波に呑まれないように、マクロ一味は姿を現した。ナマエはそれにニヤリと笑みをこぼす。
「ナマエちんっすごーい!!」
「やっぱおめェはやる奴だなぁ!!」
ケイミーとパッパグは波に呑まれないよう、ハチが捕まっている檻を支えている柱にしがみついていた。麦わらの一味はナマエのその華麗な戦闘に見惚れていた。あの小さな身体であの強力な威力を出せるとは相当な努力をしたのだろう。
それに加えてナマエは――華麗で、速いのだ。
ナマエは姿を見せたマクロ一味に空を駆けるように一気に近づく、それに呆けていたマクロ一味は焦りを見せるもそのスピードに反応出来ずに、ナマエに'触れられてしまう'。
「Rob―」
呟かれたその間に、ナマエの手にはマクロ一味の'心臓'が3つ握られていた。
「これを潰したら・・・どうなりますかねぇ?」
ナマエはハチが捕まっている檻の上に降り立つと、不敵に、残酷に微笑んだ。これではどちらが悪役が分からない。ケイミーとパッパグはその表情に冷や汗をかいた。
「わいら達の返せ!!」
「あいつ・・・!あの技、もしかして
心臓を盗まれたのに生きていることに不思議に感じていると、どうやら既視感のある顔がそこにあった。そこでようやくマクロ一味はナマエの存在を手配書と一致させた。
「早く心臓取り返さないと――死んじゃいますよ?」
ナマエはそう言って心臓を海に投げ捨てる。その行為に慌てて自分の心臓を追いかける一味達。
「おめェ、ナマエなのか!?」
「お久しぶりです、ハチさん。」
「ニュ〜!!元気そうでよかったァ!ありがとなっ!でももう'トビウオライダーズ'の罠の中、危ねぇ!!」
「なるほど・・・大丈夫です。任せてください。」
ナマエはそう言うと片手のみ外していた手袋に加えて、もう片方の手袋も外した。
「ナミ!おれ、ナマエを放っておけねぇ!」
「それに、ナマエとはトビウオに乗るって約束したんだ」そう言うとルフィは真剣な目をしてナミを見据えた。そうだ。ナマエは'1人で'戦っている。恐らくずっと今まで1人だったのだろう。誰にも助けを求めてはいけない。それがあの時、ナマエの瞳には写っていた。
『ナミさん、ごめんね』
そう呟いたナマエは悲しそうに笑っていたのだ。ナミはぐっと歯を食いしばり、ふぅと息を吐いた。『私を受け入れないでください』あの言葉にもきっと何かがある。そんなナマエになんだか腹が立ってきた。
自分から関わってきておいて、船に乗り込んで、今更受け入れないで?冗談じゃない!あんたの過去に何があったか知らないけど、こんなに私を心配させた罪は重いんだから!
「ハチやナマエはともかく、ケイミーちゃんに罪はねぇ!!彼女だけは助けるぞ」
そうイライラしたように言い放ったサンジも、他のみんなも、なんだかんだナマエが心配なのだ。作ったように笑うナマエの姿が、目に浮かんだ。
「待ってサンジ君」
ナミは吹っ切れたように、ハチを救出することにしたのだ。
補足↓↓↓
盗んだ技を使った場合はその技、技の規模次第で利用回数が決まっております。強者の技を使う場合は何回も使えません。一定数を使用後技の塊は消失し、元の持ち主へと自然と帰ります。
臓器を盗んだ後は盗まれた方は動けます。ですが潰されてしまえば終わりです。ローのメスという技に似ているかもしれませんが、ナマエの能力はその対象に触れることで盗めますので、ローの能力よりも少し使い勝手がいいかもしれません。
悪魔の実には実や技ごとに優劣があると思うので、暖かい目で読んで頂けたらと思います。