クリソコラ
「うんんん〜〜〜〜めェ〜〜〜!!!」
ハチを無事に救出したことにより、念願のタコ焼きパーティーの真っ只中である。ルフィはそれはもう凄い勢いで食べており、他の面々も美味しそうに食していた。ナマエもハチの屋台船の、隅っこの方でタコ焼きを頬張っていた。うん、美味しい。するとハチは不安そうな顔でナミの方を伺う。
「――で・・・どうだ?・・・あの・・・ナミは・・・?その、味は・・・・・・」
「・・・・・・これで何かが許されるってわけじゃないわよねェ・・・」
「いやっ!!勿論そんな!!そういう意味で言ったんじゃねェよ!!?味はどんなかなーって!!・・・・・・ホントに!!」
ナミは暫くハチを見つめたかと思うと、明るく可愛らしい表情で「すっごくおいしい!!」と笑ったのだった。それに事情を知っている面々も胸を撫で下ろす。そのやり取りを見ていたナマエは胸がズキッと痛んだ気がした。なんでここの人達はこんなにも優しいのか、どうして許せるのか。私はこんなにも'過去'に縛られているのに。
魚人島まで送ってもらいたかったけど、ここにいると本来の'目的'を忘れそうで怖くなった。眩しくて、ずっと傍にいてその光に当たっていたい。この人達と冒険したらどんな感じになるのだろうか。きっと楽しいんだろうなぁ。
「そう言えば、ナマエとハチの関係ってなんなの?アーロンとも知り合いのようだけど・・・」
口にも出したくない奴が思い浮かぶが、ナミはふと気付いたように問いかける。それに対してハチはワタワタとしだして、悩ましげにナマエにちらりと視線をやった。ナマエはというと聞こえているのかよく分からないが、タコ焼きを食べる手が止まっていた。ナミは直感的にまずいと思った。そして、ピリッと緊張が走る。突然の緊張感にサニー号にいた面子も屋台船の方を見た。それを発しているのは名ナマエだったのだ。
各々少し身構えたが、ナマエの口からぽつりと言葉がこぼれて、それに耳を傾ける。
「・・・ハチさん達には助けてもらったことがあるんです。昔にね」
そう一言発すると、先程の冷たい空気は引っ込められたが、ニコリとまたあの胡散臭い笑顔がそこに貼り付いていた。ああ、やってしまった。ナミは溜め息をつきたくなるのを抑えて、口を結んだ。だが、そんな空気を読めないものが1名いるのを忘れていた。
「助けてもらったって、何かあったのか?」
モグモグとタコ焼きをゴムが伸び切るんじゃないくらい頬張っているルフィに、一味は空気を読め!!と切に思った。本当にこの船長は・・・!!と隣にいるサンジが拳骨を落とす。
「いって〜!」
「自業自得だクソ野郎」
「えーなんでだよー。ナマエのこと知りたいだけだッ」
ルフィはぶーぶーと文句を垂れるも、サンジはそのルフィの様子に違和感を感じた。こいつが他人の過去を知りたいって??そんなことがあったか?と。いつも直感で動いて、見て、感じて、'今'を生きているこいつが。いや、おれの思い込みすぎか。誤魔化すように煙草に火をつけて、ナマエに視線をやる。
「あー、別に話したくないことだったら・・・」
「・・・まぁ船に置かれている身ですからね!どんなやつか気になりますよね!!
幼い時に'危ない場所'に入り込んでしまったところを救出してもらったって感じです!」
ナマエはまた胡散臭く笑うと、これ以上は話はないというように「あ!トイレ行ってきますね〜!お腹いっぱい〜」とサニー号へと登ってしまった。そのあからさまな態度にナマエがいなくなったあとで皆、溜め息をついた。
「ん?どうしたんだおめェら」
「あんたねぇ!ナマエがいなくなったらどうするのよっ!」
「え!!あいついなくなるのか!?」
「それは!・・・分からないけど、」
ナミは予想だが同世代くらいだろうと思っており、ナマエをずっと気にかけていた。会ったばかりで変かもしれないが、それくらい放っておけないのだ。たぶんそれは――
「私と、似ているんだもん・・・」
ボソリと呟くと顔が俯く。誰にも助けを求められないで、自分で何とかしようと、何かを内に秘めているその暗い影。そんなナマエを何とかしてあげたいと思ってはいるものの、相手があの様子じゃまだまだ難しい。事情がまず分からないし、何が地雷かも分からない。絶対に踏み込ませない、というその大きな大きな壁が中々壊せないのだ。
「ナミ、おれはナマエと冒険してぇ。」
「・・・えぇ、そうね」
「それなら、それでいいじゃねぇか!」
ルフィはそう言うとニカッと輝かしい顔で笑ったのだ。何も悩む必要はない、自分達がそう思い続けている限り大丈夫だと言わんばかりのその顔に、ナミはドキリとした。確かにそうなのだが、その自信や想いを持ち続けるということの難しさ。それでもその想いをこの男は必ず持ち続けることが出来るのだろうという安心感。
この男といると、心がジワリと広がる。高揚した気分になる。それは恐らく、船長の器なのだろう。
ナミは大きく頷いた。
「あからさますぎたな」
甲板で何やら騒がしい声が聞こえるが、それは風に乗り、音は散乱し詳細は聞こえない。ナマエはトイレには行かず、船の後方へと来て、海風に当たっていた。
自分には目的がある。それを達成するまでは生き延びなければいけない。ナマエは自然と自分の左腕を掴む。ぐっと力が入る。
これから行くシャボンディ諸島には、ナマエがこの世で一番殺したくて、憎くて、嫌いなものがいるのだ。それは――
シャボン玉が弾けて消えた。