ジルコン



どうやらシャボンディ諸島に着いたようだった。船は民間の入り口じゃなく、その先の人目につかないところに停泊したのだ。船の周りにはシャボン玉がふわふわと飛んでおり、ナマエは眉間に皺が寄った。景色はとても綺麗なのに、ここには嫌な空気が蔓延っている。

「ナマエ〜!着いたぞ〜!」

私を探しているらしい一味にナマエは、決意した。ここで離れよう。魚人島までは違う船に乗ろう。ここはシャボンディ諸島。コーティング船なんていくらでもある。ナマエは一味に見つからないように船を降りた。一度サニー号を振り返ると唇を噛み締め、そして――

「・・・ありがとう、麦わらの一味」

短い時間だったが、あんなにも心が穏やかになれたのはいつぶりだろうか。だがこのままでは私は弱くなってしまう。私は強くならないといけないのだ。もっともっと、強く――
後方でナマエを呼ばれた気がしたが、気付かないふりをして、シャボンディ諸島の奥へと駆け出した。

「大変だ!ナマエがいねぇ!!」









シャボンディを歩いていると皆がみな楽しそうに歩いていた。この雰囲気は好きなのだ。遊園地とかは特に、家族も恋人も楽しそうに遊んでいる。だが、ここは'表と裏'があるのも確か。

「おい・・・おめー、気まぐれの盗人シーフ、ナマエだなァ」

「こんなところにいるなんてラッキーだぜ・・・」

「4億のくせになんか弱っちそうなやつだなぁ」

ふと気がつくと囲まれていた。どうやら賞金稼ぎのようだ。相手は6人。造作もないな。ナマエははぁと溜め息をつく。まだ麦わらの一味がいるのだ、あまり騒ぎは起こしたくはないが、売られた喧嘩は買う主義だ。

「あんたら、相手を見くびりすぎじゃない?」

ナマエがニヤリと笑った瞬間、その姿は既に視界から消えていた。え?と思ったのもつかの間、囲んでいたはずなのにナマエは輪から抜け出しており、その手には心臓が'5つ'握られていた。そして、不敵に笑うとそれを思いっきり潰した。血飛沫がナマエを赤く染め上げる。その姿は残酷なはずなのに、美しかった。

「・・・ちっ、汚いな・・・・・・」

ナマエは心底嫌そうに血を拭った。その瞳は酷く冷めていて、寒気がするほどだった。あー、汚れてしまった。私はまた、'汚れた'のだ。ズキズキと痛む心には気付かないふり。そして1人だけ生きて残した人物に近寄る。相手はやられた仲間を見て早くも戦意喪失しており、ガクガクと足を震わせて、ナマエが近づくと尻餅をついた。

「あ、あぁ・・・!ごめんなさいごめんなさい!許してくださいッ!!」

「許してください?・・・剣を抜き、銃口を向けた相手に命乞いとは・・・・・・あんたらには命をかける覚悟がなかったみたいだね」

ナマエは相手が所持していた銃を取り上げると、その銃口を相手に向ける。男は更にガクガクと震えていて、その目には恐怖が浮かんでいた。それに嫌な記憶が蘇る。

『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!』

ちっと舌打ちをこぼすと、ナマエは問いかけた。

「'トラファルガー・ロー'を知っているか?」

「あ、あぁッ!いま、このシャボンディ、にいるよッ!!ここに、はルーキーが・・・集まっているッ!」

ナマエはそれに目を見開いた。まさかここまで来ているとは。私は意外とラッキーなのかもしれない。その答えに満足したナマエは相手に弾丸を放った。
大きな破裂音と共に銃口は煙を上げていた。その銃を踏みつけて潰すも、辺りに血は流れていなかった。そう、全て'外して'打ったのだ。だが男は撃たれたのかと思ったのか泡を吹いて気絶していた。軟弱な野郎だ。
ナマエは葬ってしまった5人と、気絶させてしまった1人に目をくれるも、すぐに視線を逸らして歩き出した。

だが、その姿を見られているとも知らずに。

「あれは・・・」





暫く人攫いや、賞金稼ぎの相手をしていると、ナマエの耳に知り合いの声なき叫びが聞こえたような気がした。ナマエは見聞色が一番得意だったりする。元よりスピードは速かったが、見聞色があると更にそれが研ぎ澄まされるのだ。
その声を辿り、後を追った。妙な胸騒ぎがする。ナマエは聞き間違いであってくれとも願うが、人攫いらしき人物達を見た先には、でかでかと'HUMAN'の文字が。ひゅっと喉が鳴った。ズキズキと痛み出す頭、そして腕に刻まれたものが疼いた気がした。ここの空気は本当に汚い、醜い、気持ち悪い、吐き気がする。キッと睨みつけて、再び声を辿る。屋根に飛び乗り、上からその引き渡しているものを見ると、見覚えのある尾ひれが見えた。

あれは、ケイミー??

私がいない間にこんなことになろうとは。麦わら達がついているから大丈夫かと思ったが、油断したみたいだった。人助けなんて柄じゃないが、ケイミーは'普通の子'なんだ。
魚人とか、人魚とかは関係ない。あんな日向を歩いていくような子がここにいちゃダメだ。
ふぅと心臓を落ち着かせ、辺りを見回す。とりあえず中に入らないといけないな。ナマエは賞金首ではあるが、ここは無礼講である'人間屋ヒューマンショップ'、特に問題なく表から入った。
どこかにある舞台裏に通ずる道を探ろうとするも、かなりの数の海賊や貴族、天竜人もチラホラいるところを見ると下手に動けない。ここは裏手に回り、そこから侵入した方が良さそうだなと思い、足を進めようとすると、パシリと腕を掴まれた。

「おい、」

この低く唸るような聞き覚えのある声に冷や汗を流した。なんか厄介な奴がいる気がする。

「てめェ、んでこんなところにいんだァ?」

ゆっくり振り向くと真っ赤な髪を立ち上がらさせ、獣のような目がこちらを射抜いていた。ユースタス・キャプテン・キッド。

「キッドさん・・・」

「しかもおれより懸賞金上がってんじゃねぇかナマエちゃんよォ」

「あなたこそ、何故ここに?」

「ハッ、暇つぶしだ。でもまさか、会えるとは思ってなかったぜ」

そう言うと腕を引っ張られ、もう片方の手で腰を抱かれる。うっ、身動きとれないし!力の強いそれに相手を睨みつけた。今こんなことをしている暇ないのに!

「おれの誘いにはいつも乗らねぇもんなぁ!今日こそ逃がさねぇぞナマエ、」

「縛られるの嫌いなのでッ」

キャプテン・キッドのところにも一度'野宿先'として船に乗せてもらったことがあった。そこでずーっと仲間になれとしつこかった為に逃げ出してきたのだ。
隣で見ていた人物がキッドに声をかけた。

「離してやれキッド、ナマエが困っているだろう」

「それに人の目もある」と落ち着いたその声に視線を向けると、そこにはキラーがいた。ナマエは一番キラーに懐いていた為、顔が明るくなった気がした。

「キラーさん!お久しぶりです!」

「てめ、おれの時と態度が違いすぎるだろ!」

面白くなさそうに舌打ちをこぼしたキッドは掴んでいた手をギリギリと握り締めた。痛い痛い!このクソ野郎!と睨みつけるも、相手はニヤッと笑っただけだった。


すると、更に声が聞こえた。

「おい、ユースタス屋・・・その手を離しやがれ」


そしてナマエはいつの間にか声を発した人物の近くに来ていた。いや、移動させられたと言う方が正しいか?キッドも驚きに目を染めるとその人物に対して不敵に笑った。

「'北の海ノースブルー'の2億の賞金首、'トラファルガー・ロー'だ、ずいぶん悪ィ噂を聞いてる」

「へぇ・・・行儀も悪ィな」

ローは座席からキッドに中指を立てる。
その状況を呆気にとられて見ていたが、ナマエは助けてくれたのかどうかは知らないが、その人物を見て、涙が出そうになった。

「ロー・・・なの?」

「・・・・・・久しぶりだな、ナマエ」

いや、間違えるはずがない。その体調の悪そうな顔に、悪人面のような目付きの悪いそれに、確実にその人だと思った。

ナマエはローに飛びついた。