ボルダーオパール


「ケイミーさん、早くっ」

ナマエはそう言うとケイミーに手を差し伸べ水槽から出そうとする。ケイミーの首には、既に爆弾付きのそれはなかった。だが、もたついている内に、ナマエにとってこの世で一番関わりたくない者が近付いて来る。

「そこの下地民!!その人魚から退くアマス!」

声高らかにそう述べたのは、シャルリア宮。拳銃をこちらに向け、嫌悪のこもった目でナマエを見つめていた。ああ、そんな目で見つめるな、気持ち悪い、汚い、醜い――苦しい。ぞわぞわと背中に這うような感覚を覚えたナマエは、その声にちらりと一瞥くれると、ゆらりとシャルリア宮に向き直る。その怪しい雰囲気に周りにいた者はゾクリと鳥肌が立った。

「っ!貴様も歯向かうと言うのかっ!!」

言葉は強いものの、ナマエのそのただならぬ様子に拳銃の先はガタガタと標準が定まらないでいた。ナマエは髪の毛の隙間からシャルリア宮を睨み付ける。その瞳には先程のシャルリア宮の比にもならないくらいの嫌悪と憎悪が渦巻いていた。

「ナマエ、ちん・・・?」

「・・・・・・・・・シャルリア宮、これ、お返しします」

ナマエはケイミーの声にスっと現実に戻される。やはりまだこいつらには拒絶反応が出てしまう。呑まれそうになった意識にふぅと溜め息を吐くと、その顔には既に胡散臭い笑顔が貼り付いていた。そしていい笑顔のまま、ケイミーの付けていた首輪を相手に放り返した。
シャルリア宮は思わず受け取ってしまうが、それを認識した瞬間に青ざめ、慌てふためいていた。ナマエはそれに対してクスクスと嫌な笑みを浮かべ、その間にケイミーを水槽から救出した。

「このっ!下地民めが!!'魚'共々死ぬアマス!!!」

怒りからなのか、恥ずかしさからなのか、標準の定まらないままに拳銃を発砲しようとするシャルリア宮にナマエはケイミーの前に立ち塞がり、彼女を再度睨み付けた。だが、次の瞬間、舞台裏からまたあのピリッとした緊張感がナマエの肌を撫でた。
それによりシャルリア宮は泡を吹いて倒れ、ルフィ達はその騒がしさからステージに目を向け、そこで初めてナマエに気付いた。

「ナマエッ!ケイミー!!」

名前を呼ばれたが、ナマエはルフィの方に見向きもしない。今ルフィの方に目を向けてしまえば、縋りたくなってしまう。口々に自分を呼ぶ声が聞こえた気がした。

「お嬢さん、いいのかい?」

舞台裏から出てきたその人は、人のいい笑みを浮かべながらも、目は何もかも見透かしたような瞳だった。ナマエはその瞳を見ていられなくて、視線を彷徨わせる。

「・・・ふっ・・・・・・ホラ見ろ巨人君。会場はえらい騒ぎだ。オークションは終わりだ。金も盗んだし・・・さァギャンブル場へ戻るとするか・・・」

ナマエの心の内を察したその人は切り替えるように後ろからやってきた巨人族の男におちゃらけたように声を掛けた。その様子を見ていた周りの者はどよめいていた。何故'商品'達が出てきているのかと。
だがその人はそんな注目も気にせずに、自分の知り合いを見つけたのか歓喜の声を上げた。

「おお!!?ハチじゃないか!?そうだな!!?久しぶりだ。何しとるこんな所で!!その傷はどうした!!」

「あ〜いやいや、言わんでいいぞ・・・ふむ・・・」とその立派な顎髭に手を当て、周りの様子をぐるりと見回し、ナマエとケイミーにも目を向けた。何かを探っているようなその瞳はやはりただの老人ではなかった。ゴクリと喉が鳴る。

「つまり――成程・・・まったく、ひどい目にあったな、ハチ・・・お前達が助けてくれたのか」

思い詰めたようなその顔は悔しそうな、悲しそうな、そして僅かに怒気が含まれていた。ルフィ達に一瞥くれ、「さて――」と呟いた瞬間、肌を痛めつけるほどの'威圧感'が会場を襲った。
ビリビリくるこの感覚、間違いなく、'覇王色の覇気'だった。ほとんどの兵達は地に伏せ、立っていられたのはごく僅か。今までに少しばかりの覇気は感じていたが、ここまで威圧的で、遥か高みにあるとは思わなかった。立っていられた海賊達の額にも汗が浮かぶ。

「その麦わら帽子は・・・・・・精悍せいかんな男によく似合う・・・!!会いたかったぞ――

モンキー・D・ルフィ」

そしてその人は不敵に笑った。







「フッフッフッフッフッフッ・・・!!おめェなァ・・・【人身売買】なんてもう古いんだよバーカ・・・!!」

ディスコはステージ裏の控え室にて、ある男と電伝虫を通し会話していた。だが、この'人間屋ヒューマンショップ'の持ち主は助けることもなく、不敵に笑うばかりだった。

「時代は'スマイル'さ。もうおれんトコへかけてくんじゃねェ・・・ディスコおめェにやるよその店は・・・!!フッフッフッ!!」

その発言に物申したくなる。今までお前の言う通りにしてきたのに、この男はおれだけの責任だと、店を放棄したのだ。それに対して焦りを覚える。情けない話だが'王下七武海'であるこの男の権限があったから、後ろ盾があったからこそ生きてこられたのだ。
だが、文句を言うにも通じない。

「面倒臭ェ野郎だ・・・・・・ところで、その島に'盗人シーフ'がいると聞いたが?」

「あ?あぁ・・・シャボンディには来てるっておれの部下共も言ってたぜ」

気まぐれの盗人シーフ――懸賞金4億ベリー

こいつもここで売ればどんな値がつくのか。実際にそいつを見たことはないが写真を見る限り中々にいい値を張りそうだ。だが、この男が何故そんなやつを気にするのだろうか。

「なんだ?あんたの知り合いか?」

「フッフッフッ・・・いや、'逃げた犬'を主人は心配しているだけさ」

機嫌が良さそうに笑うその声は何だか不気味にも聞こえた。

「まぁいい・・・てめェが自分の不幸をおれのせいにしている間にも'新時代'は近づいて来ているのだよディスコ君」

「・・・!?」

「おれは今――いやおれ達・・・は今・・・海軍の'強制召集'を受けている。お前は・・・この未来をどう読む?」

そんなの知るわけもないだろうと内心で悪態はつくも、やけに楽しそうに語るその口調は、後に歴史に残る大きな戦争への祝辞にも聞こえた。

「白ひげ海賊団 VS 王下七武海」