ハウライト



トビウオライダーズはその後、先程お世話になったらしい'ぼったくりBAR'というところまで送ってくれた。ルフィはナマエを抱えたまま中へと入るのでめちゃくちゃ恥ずかしい思いをした。
ハチをベッドに寝かしつけ、チョッパーは治療を施す。麦わら一味達はそれぞれに少し落ち着いたのか自由に腰を掛けていた。ナマエはなんだか気まずい気持ちも相まってソワソワと落ち着かない様子だ。それに気付いたようにシャッキーは声をかけた。

「あら?あなたは・・・」

「あ、初めまして。私はナマエと申します。」

「ふふっ、知ってるわ。宜しくね。私はここの店主のシャッキーよ」

そう言って妖艶な素敵な笑顔を浮かべるシャッキーにナマエは下手くそな笑みを返した。

「それで?ナマエは何か言うことがあるんじゃない?」

ビクッと肩を揺らすとナミは足を組みつつ、膝に肘を乗せて、ジトッとした顔でナマエを見つめていた。その有無を言わせない顔にナマエは冷や汗が流れるのを感じる。何を言えばいいのか正直分からない。だって話したところで、何も変わりはしない。
頑なに話す様子もないナマエに微妙な空気が流れた。

「ニュ〜・・・麦わら達、ナマエのことは、聞かないであげてくれないか・・・」

「ハチ、さん・・・」

「・・・誰にでも話したくないことの一つや二つはある。それは分かってるわ。でも突然いなくなるのはやめてよね!」

ナミはそう言うと呆れたように肩を竦めていた。その顔はナマエのことを本当に心配していたのが分かり、罪悪感が募った。勝手にいなくなったところで心配するような奴は今までいなかった。私を利用したいが為に近付いてくる輩も多く、そいつらを裏切るなんて日常茶飯事だったのだ。
ナマエは初めて感じるそれに重い口を開いた。

「皆さん・・・すみません。ご迷惑をおかけして。」

「分かればいいのよ」

「とりあえず連れて来ちまったが・・・ナマエは本当はどうしたいんだ?」

謝ったことにより空気は穏やかさを取り戻すもサンジの的を得た質問に、押し黙ってしまう。本当は、本当は――

「私、は・・・」

「ナマエ、いいよ。船から降りても。」

「え?」一瞬誰に言われたのか分からなかった。一味の面々も驚愕に満ちた顔でその人を見ていた。つい数刻前まで言っていたことと矛盾しているその発言に。

「ちょっ!ルフィ何言ってんだおまえ!」

「だから!降りてもいいって言ったんだ」

「・・・る、ルフィ、さん」

「元々降りるつもりだったんだろ?それが早まるだけだ」

ルフィはナマエを一度も見ることなく、そう言ってのける。その言葉はナマエが一味に対して言ったことと変わらなかった。そうだよな、こんな得体の知れない奴と一緒にいたところでこの人達には何のメリットもない。
ただ押し寄せる悲しみの波に奥歯を噛み締めて耐えた。こんなに辛いのか、辛い辛い辛い辛い辛い――

「おい!ルフィ!おまっいい加減に・・・!」

「ナマエの決めることだ」

なんだかんだ優しいサンジはルフィを止めようとするも、その言葉をバッサリ切ってしまったのは、ゾロだった。ゾロも同じくナマエを見ることなくただ言葉を待つのみで、再び沈黙が訪れた。空気が張り詰めていて息が詰まりそうだった。私は'必要ない'、そう言われているようで、耐え切れなくなって言葉をこぼした。

「・・・っ、わたし・・・!わたし・・・おり、ます。助けて、くれて・・・ありがとう、ございました」

耐えるように言葉を放つと、頭を勢いよく下げて、建物を飛び出した。これでもう、会うこともないのだろうか。ナマエは頭がおかしくなりそうで、苦しくて――ナマエの持てる全速力でシャボンディを駆けて行った。その瞳には流れる涙はなかった。





「ルフィ!!あんた!本当に馬鹿なの!?どうしてあんなこと言ったのッ!?」

「なッナミ、落ち着けよ!な?」

ナミは泣きそうな声でルフィの胸倉を掴んでいた。あまりの形相にウソップが慌てて止めに入るも言われた本人は無言を突き通していた。だが意外だった。うちの船長があんなことを言うのはあまりないことで、ただ無闇に人を傷付けるような奴でもないのだ。それはここにいる奴らが一番分かっている。ナミもそれは頭の中で理解は出来ている。
でもそれでもあのような言い方をしなくてはならなかったのだろうか?ぐっとルフィを睨みつける、するとルフィは漸く口を開いた。

「・・・あいつ、おれ達といても、悲しそうな顔するんだ。」

ぽつりと呟かれたそれに、ナミはハッと何かを感じた。

『私を受け入れないでください』

ナマエの言葉が頭の中で反響した。するりとゆっくりと胸倉を掴む手が離れていく。

「仲間になれって言うたびに、傷ついた様な、そんな顔するんだ。おれは、ナマエの笑った顔が見てェ・・・なのに!そんなやつに!言えるわけないだろッ」

ルフィも何だか悔しそうな顔をしていた。私達は、ナマエのことを何も'知らない'のだ。それでもいいと、ナマエが何者であろうと関係ないと思ったが、ナマエの中ではきっとそんな話ではないのだ。あの小さな身体にどれだけのものを背負ってるのか、理解したいのに、させてもらえない。
歩み寄ることさえ、できないのだ。
この不器用な船長は、自分なりに気遣ってのそれだったのだ。私達といることで傷付くくらいなら――

「ルフィの言うことも一理あるし、最終的に決めるのは・・・ナマエだろ。気持ちがバラバラな奴が1人でもいれば、この後の'新世界'で生き残っていくなんざ、到底無理だろうからな」

ゾロは静かにそう言った。悪いやつじゃないことくらいもう皆分かっているのだ。あとは、ナマエ次第。それを決断させる為の沈黙だったが、上手く事は運ばない。どうも不器用すぎる連中にレイリーも溜め息を吐いた。
お互いが素直に気持ちを打ち明ければいいものを、何と不器用で、下手くそな奴らなのだろう。レイリーは懐かしい顔を思い浮かべていた。

「少し、話をしようか――」

そうして語り出したのは、我が友であり、我が唯一無二の船長の――ゴールド・ロジャーの生き様だった。









シャボンディを駆けて行ったナマエは暫くすると立ち止まっていた。ルフィに言われた言葉が重く伸し掛る。

『降りてもいい』

その一言が何故だか胸を酷く締め付けられた。'必要'とされたくなかったはずなのに、頑なに降りると言っていたはずなのに、どうして私は――こんなにも求めてしまっているのだろうか。必要としてほしい、なんて自分が一番矛盾している。
私には私の目的があって、彼等には彼等の目的がある。そこは変わらない。でも私も――

「って、でも、でもばかりだな私は・・・」

自分の不甲斐なさに溜め息をついた。今更どうしようも出来はしない。'また'受け入れるしかないのだ。諦めにも似たその感情は、自分の心に蓋をしようと、スっと気持ちが急激に冷めていくのが分かる。それでも、前に進むしか道はないのだ。

すると突然、ナマエの頭の中に掠める嫌な予感。

ばっと頭を上げると街の様子が一部騒がしいことに気付いた。凄く、物凄く、嫌な予感がする。今、行かなければ後悔するような。
だがそれを足止めするかのように、ナマエに立ち塞がったもの。

「・・・おい、なんでこんなところに'七武海'がいるんだ。」

ピピッと機械音が聞こえたそれはナマエを意志のない瞳で見つめていた。

「懸賞金4億ベリー、
気まぐれの盗人シーフ――ナマエ」

「・・・・・・バーソロミュー・くま」