「おめェさん、盗人か。厄介な奴が来やがった」
「・・・おカッパが」
じりじりと間合いを取りつつ油断は見せない両者。その緊張感にルフィは呆気にとられていた。ナマエの底知れぬ強さに、不安と安堵と、先程見せた悲しそうな顔が全身を駆け巡る。
「麦わら達に手を貸すってんなら・・・おめェさんも'海賊の仲間入り'しちまうぞ?」
「私は気まぐれなんですよ・・・噂は知っているでしょう?」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべたナマエは瞬間、その距離を詰めた。そして再び手を黒く染め上げると、勢いのまま相手に拳を振るう。だが相手も危惧していたかのように避け、ナマエに触れられないようにしていて、やりづらそうだった。
「(こいつに触れられた瞬間に持っていかれる・・・)」
そう、ナマエにとって能力者じゃない奴との接近戦はこの上なく有利であり、それは戦桃丸もナマエも理解していた。だから戦桃丸は距離を取ろうとする。背負ってる鉞も触れられてしまえば、盗られてしまうので使えない。
「おカッパさん、避けてばっかじゃ・・・倒せないですっよっ!」
ナマエはそう言うと高速で戦桃丸の懐に入り込み、下から顔を蹴り上げた。それをモロに食らった戦桃丸は顎が割れるような痛みに耐えるように奥歯を噛み、直ぐに距離を取る。
分が悪すぎる戦いに苛立ちを隠せない戦桃丸は舌打ちをこぼした。
「つ、強ェ・・・」
「ナマエ、まさかここまで・・・」
「早く行ってくださいッ!!」
「ッ!行くぞ!ロビン!チョッパー!」
ルフィはハッと気が付くと、チョッパーとロビンに声を掛け立ち上がる。ナマエは――助けてくれたのだ。助けられたという事実に悔しさと、安心と、戸惑いと、ルフィの頭の中は乱れていた。普段は決して揺るがない自信が、少し揺れた気がした。
だが、走り出そうとした瞬間にも悲劇が訪れる。
「ゾロ〜〜〜〜〜〜!!!」
ウソップの悲痛な叫び声と共に目視できたのは、地に伏せているゾロと、'正義'というコートを羽織った黄色いスーツが特徴的な長身の奴だった。
「気をつけて!!!その男【海軍大将】よ!!!」
ロビンの切羽詰まった声が響いた。ナマエもそれに目を向けて、見開く。足元にはボロボロな姿のゾロ。いつも余裕の笑みを浮かべている彼が頭に浮かんだ。だが余所見をしてしまったせいで、戦桃丸に攻撃を許してしまう。
「余所見してんじゃねェ!!!」
「!!かはっ・・・!!」
恐らく武装色を纏った攻撃をくらい、内臓が押し潰されるような感覚と、口の中に血が広がった。何とか受身をとるも瓦礫へと叩きつけられた。クソっ、武装色を纏えずにモロに食らった・・・骨が何本かいったかもしれない。血反吐をペッと吐き出すと、ガラリと音を立て瓦礫から何とか立ち上がる。
「危ねェ!!!ゾロが危ねェ!!!」
ルフィの声にナマエはゾクリとし、ばっと黄猿の方を見る。ヤバい、本当にゾロさんが死んでしまう。ドクドクと脈打つ心臓を押さえて、ゾロの方へと足を向ける。先のバーソロミュー・くまとの戦闘がナマエの体力をほとんど奪っていた。上手く足が動かない、いや、攻撃を受けたのはお腹と、腕だけだ。足は動く、動け動け動け!!
「畜生!!!何でだ!!?当たらねェ!!!その足をどけろォ〜!!!」
「刺さりもしません!!!ちょっと!!!どうしたら・・・!」
「ムダだねェ・・・わっしは'ピカピカの実'の・・・【光人間】
そうだ、ここで黄猿を止められるのは――私だけだ。私が、止めなければいけない。ナマエはぐっと足を踏ん張り、駆け出した。やっと、心地よい場所が見つかったのだ。仲間には・・・なれないけど、そこは私の――憧れなのだ。誰一人欠けてはならないのだ。やめてくれ。'奪わないでくれ'。
「やめろおおおお!!!」
「ゾロ〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」
手を――伸ばした。ナマエの手には模様がいつもよりもくっきりと浮かび上がっていた。
その一瞬、光がナマエの方へと'奪われていく'感覚が黄猿を襲った。'触れられていないのに'。
ゾワリと悪寒が走った。その1秒にも満たない油断が、一瞬の動揺が、黄猿の攻撃をゾロではないどこかへと飛ばされてしまった。
「――あんたの出る幕かい、'冥王'レイリー・・・!!!」
「若い芽を摘むんじゃない・・・これから始まるのだよ!!彼らの時代は・・・!!!」
レイリーの登場により安堵を覚えた一味は息をついた。さすが海賊王の右腕というべきか、あの黄猿の攻撃を止めてしまったのだ。
各々レイリーに対して感謝の意を抱く。
だが、ナマエは自分の掌を呆然と見つめていた。今、'奪えそう'だった・・・?気のせい、だよね?手が凄く熱くなり、未だにズキズキと痛む。
「彼らを見逃すわけにはいかんかねェ・・・黄猿君」
「勘弁して下さいよ・・・このコらをとっ捕まえねェと・・・我々【海軍本部】はマリージョアの'天竜人'達に顔が立たんのですよ・・・それに・・・・・・」
そして黄猿はナマエを見た。先程確かに'その感覚'を覚えた黄猿は不安が胸を占めた。もし、あの能力が進化を遂げているとしたら――
「邪魔ァせんでくれませんか・・・・・・!!!」
「ウソップ、ブルック!!!ゾロを連れて逃げろ〜〜!!!
全員!!!逃げる事だけ考えろ!!!今のおれ達じゃあ、こいつらには勝てねェ!!!」
ルフィの悲痛な叫びと、ナマエの記憶が重なった。
『来るな!ただ逃げることだけ考えろ!!』
そう言った人物はもう――この世にいないのだ。ナマエは痛む左腕を押さえた。