水晶
「ナマエッ!!大丈夫か・・・!ありがとう!!!」
いつの間にか傍まで来ていたルフィにパシッと腕を掴まれる。その瞳には焦りと、困惑と、安堵が揺らめいていた。この人にこんな顔は似合わない。ナマエはへらりと笑うと掴まれた腕を離させた。
「行ってください、ルフィさん。私も――食い止めます。」
「ッ!ナマエも!!!行こう!!」
「ダメです、私はあなた達の仲間でもないし、逃げる場所なんてありません」
「そんなの・・・!今は関係ねェよ!ナマエもボロボロじゃねぇか!!」
「今!ここで!奴らを止めないと!!誰も逃げられないでしょ!!!」
初めて聞くナマエの大きな声に驚いた顔をするルフィ。ロビンもチョッパーも不安そうな顔をしている。
「あなたは、'麦わら一味'の船長なんです。船長は、船員のことを考えてあげてください。私は――気まぐれなんです」
そう言って笑ったナマエの顔は、いつもの胡散臭い笑顔ではなくて、優しい、穏やかな笑みだった。初めて見るそれに、ルフィはドクリと心臓が大きく揺れた。何も言えなかった。そしてギリギリと自分の拳を握り、ナマエに背を向けて駆け出して行く。
「ナマエ!おっさん!ありがとう!!」
ルフィ達が駆けて行ったのを見届けたナマエは戦桃丸へと向き直った。あのくまロボも厄介だが、覇気の使えるこいつもルフィさんのところへは行かせはしない。とっとと片付けて、くまロボも処理する。
「盗人・・・わい達の邪魔すんじゃねェ」
「おまえこそ・・・私の邪魔、しないでくれないかな?」
「ちっ・・・【PX-1】!!ロロノアが虫の息だ!!そっちから行け!!」
「ッ!」
ナマエはその声にカッとなり、戦桃丸に詰め寄り拳を向けた。だが咄嗟に拳を掴んだ戦桃丸はその勢いのままナマエを地面へと叩きつける。何回も叩きつけられてたまるか!とナマエは空いている手を戦桃丸に伸ばした。それを察知した相手はすぐさま、ナマエと距離をとる。掴まれていた手が離れたことにより、ナマエは体勢を整え地面へと着地した。
そのまま暫く攻防が続く。
「ブルック〜〜〜!!!」
大きな光は周りの視界を覆い尽くす。あっちも気掛かりだ。早く、片付けなければ!
「盗人、おめェは後だ」
そう言った戦桃丸は名ナマエを通り抜けて、ルフィ達を追う。しまった!ナマエは猛スピードで疲れている足を動かした。スピードなら、私の方が速い!!ルフィに攻撃をしようとしている戦桃丸に対して、高く跳躍すると背後から蹴りを落とす。戦桃丸はそれに気付くも、速すぎる攻撃に反応が一瞬遅れて地面へとめり込んだ。
「はぁ、はぁ・・・」
血の流し過ぎと、覇気と能力の使いすぎで意識が朦朧としてきた。ナマエはふらっと一瞬ふらつくも何とか持ち堪える。
「サンジーーー!!!!」
そちらに目をやるとサンジが光線に撃ち抜かれていた。ひゅっと喉が鳴る。そしてゾロやウソップももう限界だ。ナマエの中がザワりとどよめいた。おい、なに・・・しているんだ。それよりも早く、異様な空気が辺りを包んだ。
――ブオオオオオ!!!
まるで怪物のようなそれに驚くも、雰囲気からか既視感を覚える。
「チョッパー・・・さん?」
その瞳には自我がなかった。暴走しているのか・・・止めないと・・・!!止めないと!!!いつも可愛いらしくて、優しいチョッパーがあんな姿にならなければいけないのは――仲間の為。
暴走するチョッパーを避けつつ、チョッパーを傷付けないように鎮静させるにはどうしたら!!怒りという感情を奪うか?それともこの能力自体を奪ってしまうか・・・そうしたらチョッパーに影響は及ばないだろうか・・・ぐるぐると思考回路が乱れる。
「待て・・・・・・・・・【PX-1】!!」
落ち着いた声が響いた。
感覚で分かる。
突然、そこに現れたのは、くまらしきもの――ではなく、本物の'バーソロミュー・くま'だった。
こんな時に本物の七武海がくるなんて!!次から次へと!ナマエはくまの方へと足を進める。
「ロビンさん!こちらは一旦任せます!」
「ええ・・・!!」
近くでチョッパーの暴走を避けていたロビンに声を掛ける。戦桃丸もナマエの攻撃のダメージがあるのか、避けるのに集中している為、まずは、あちら側からだ。助けたい!助けたい!!待って!
「旅行するならどこへ行きたい・・・?」
だがくまが静かに問いかけた先にはゾロがいた。とても――嫌な予感がする。
待って!待って!!待って!!!
くまは手袋を外した手でゾロに、触れた。
「ゾロさんっ!!」
「・・・来るなッ」
ボソリと呟かれた声は、ナマエの耳に届く前に消えてしまった――
「ゾロ!!?・・・・・・!?ゾロ!!?」
それを見たナマエの頭の中が荒れるように、皆の悲痛な叫びが頭に流れ込んでくる。
「ゾロ〜〜〜〜!!!どこ行ったんだァ〜!!?」
「ゾロをどこへやったんだァ〜!!!何とか言いやがれコンチキショー!!!」
「危ねェウソップ!!後ろだ!!」
もう、やめてくれ・・・!!!
ナマエは必死に走る。足がもたつく。だがウソップの後ろから迫り来るPX-1の攻撃さえも消したくまに、疑問が渦巻いた。何を考えているのか分からない、こいつは何がしたいんだ!!・・・だが一つだけ分かること、ゾロを消してしまったこと・・・・・・私があの能力を'奪うしかない'ってこと!
「とにかく全員ここから逃げろ!!!後は助かってから考えろォ!!!」
ルフィの声が聞こえてくる。それと一緒に心の声も聞こえた気がした。一番辛いのはルフィだ。苦しめないであげてよ、この人達は'自由'に生きているだけ。皆ではしゃいで、騒いで、冒険しているだけ。
この人達が何をしたの、そんなに'あいつら'が偉いのか。どろりと、また何かが溢れた。
だが無慈悲にも、仲間は――消える。
「ブルック〜〜〜!!!!」
また一人。
「ウソップ〜〜〜〜!!!」
やめて、やめて――
「サンジさん!だめっ!!」
あと少しでサンジに届きそうだった手は、空を切った。がくりと膝から崩れ落ちる。また助けられなかった。私はいつも、助けられない――
なんで、どうして・・・・・・私が、
『おまえが弱ェからだ、ナマエ』
『欲しいものがあるなら、手に入れてェもんがあるなら、奪えばいいんだ。何もかも。他人から、奪え。それが――おまえの役割だ』
記憶の中の、憎むべき奴の声が響く。
「・・・ぁ、ぁあ・・・・・・」
「盗人・・・何故ここにおまえが・・・」
「・・・・・・っ!!貴様っ!許さないッ!!お前の全てを!奪ってやるっ!!!」
ナマエはそう言うとくまへと猛スピードで突っ込み、身体に触れようとした。だがその手はくまに触ることなく掴まれてしまう。
「おまえに居られると厄介だ――」
ヤバい!と思い、直ぐに足に覇気を纏い攻撃を試みるもボソリと告げられる真実にナマエの動きは止まった。話を聞いていくうちに興奮していた血流が落ち着きを取り戻し、ズキズキと痛かった頭も次第に引いていく。
「・・・え?」
「だから、抵抗してくれるな」
「・・・本当、なんですか」
「ナマエ〜!!!逃げろ!!」
「逃げて!早くッ!!!」
口々に自分を呼ぶ声が聞こえたが、ナマエは抵抗するのを戸惑った。もし本当にそうであるなら――ルフィ達を助けてくれるなら――
「・・・決めるのはお前だ。だが・・・おまえも、もっと早くに、助けてやりたかった。」
ナマエはくまのその言葉にハッと息を飲んだ。何を、言っているんだ・・・くまには関係のないことなのに。息を一つこぼすと、決意したかのように凛とした声で、告げる。
「・・・・あの人達のこと・・・よろしくお願いします」
ルフィの顔が見えた。
ああ、そんな顔はあなたには似合わないよ、ルフィさん。
――――そして、掌が、触れた。
「ナマエ〜!!!!!」
――この日船長、モンキー・D・ルフィ率いる海賊団'麦わらの一味'は、【完全崩壊】を喫した。