「あー、私どこまで飛んでいくんだろう・・・」
ナマエの視界には青々と続く空が広がっていた。
バーソロミュー・くまの能力はイマイチ理解していないが、確か'ニキュニキュの実'だったか?詳細までは分からない。だが、助けられたのは事実であり、麦わら一味を逃がすということはそれなりに何かあるのだろうか・・・
でもこれで、私も自分の目的を果たすことが出来る。ルフィ達と共に居たいとは思ったけど、あそこは'私の憧れ'に過ぎないのだ。見ているだけで満たされるような気がした。見守っているだけで充分だ。少し心は痛むけれど、大丈夫。
ナマエは自分の心にそっと蓋をした。
「にしても・・・くまさん、どこまで飛ばすんですか!」
ナマエは未だに到着することのない現実に、戦闘後の疲れが溜まっていたのもあり、眠りに落ちてしまった。
――ボンッ!!
「いたっ・・・」
暫く寝ていた頃だろうか、突然身体に響く衝撃と音で目が覚めた。思わず寝てしまったが・・・ここは、どこだ?どこか大きな船のようだ。ナマエはムクリと起きると辺りを見回した。どうやら船の甲板のようだ。そして、見上げた先にある帆に目を見開いた。
「おいおい・・・まじか」
骨を十字に背負うようにして、骸骨には特徴的な'白いひげ'――
この海にいる者なら知らぬ者はいないだろう、海賊――白ひげ海賊団の船だった。
ナマエは冷や汗を流した。何故くまはこんなところに飛ばしたのか・・・ぼそりと思わず声に出た音は、後ろから首に添えられた手によって空気に消えた。油断していたのもあるが、気配が感じ取れなかった。ナマエはゴクリと喉を鳴らす。そしてドタドタと船内からも何人もの足音が聞こえた。
「誰だよぃ、てめェは・・・突然'気配もなく'現れやがって」
「・・・す、すみません。私、ナマエと申しまして、事情を聞いていただけませんか?」
ビリビリとした殺気に思わず両手をあげて、反乱の意思はないことを相手に伝える。名前を聞いた彼は「・・・ナマエ?」と何か思い当たったような声を出していた。
「おまえ・・・どうしてこんなところに'盗人'がいるんだよぃ」
「話すと長いのですけれど・・・この状態でいいですか?」
「・・・」
そう言うと彼は首から手を離してくれた。たぶん少しでも身動きを取れば首の骨が逝ってしまっていただろう。そう思う程の険悪な空気に身体が少し震えた。
航海していた時はここまで大きな海賊団に乗せてもらうことはなかった。何故なら到底太刀打ちできないし、大きい規模の海賊は人数も多い為、気が休まる時がない。なるべくルーキーや、少数精鋭の海賊団を野宿先として利用させてもらっていたのだ。
だが、まさかこんな大きな海賊団に来るとは・・・
いつの間にか甲板に集まって、私を取り囲む白ひげ海賊団達。その視線は嫌悪と、好奇心と、疑問、十人十色だった。
「変な真似したら・・・タダじゃおかねぇからな」
「も、もちろんです・・・」
ナマエは周りの空気を感じ取り、苦笑いを浮かべる。うん、これが普通の反応だよな。最初は誰もが警戒する。それは当たり前。だから、'あの人たち'は心配なのだ。ナマエはつい先日まで一緒にいた一味の穏やかな空間を思い出していた。
「で?事情ってなんだよぃ?」
「・・・先日、モンキー・D・ルフィ率いる海賊団が、天竜人に手を挙げた事件はご存知ですか?」
「・・・あぁ、全くバカな奴らだよぃ」
その言い草は呆れのような、感嘆のような――どちらにしろ悪いものでもなかった。
「私、諸事情により、ちょうど麦わら海賊団と共にいまして・・・巻き込まれたというか何と言うか・・・・・・その時、居合わせたバーソロミュー・くまにぶっ飛ばされちゃったんですよね」
「バーソロミュー・くまって・・・七武海の?・・・巻き込まれた・・・あー、おまえ、海賊でも海軍でもないんだっけ?」
「はい、私は'盗人'ですから」
ナマエはそう言うと胡散臭い笑顔を浮かべる。仲間――と呼べるものは、何一つない。ナマエは心の中がちくりとした気がしたが、気付かないフリをする。男はふむと悩ましげに顎に自身の手を持ってきて、思案している様子だ。
「ここは・・・白ひげ海賊団、ですよね?」
「そうだよぃ。全く・・・突然気配がしたと思ったら・・・こんなでかい跡残しやがって」
「それは・・・私のせいでは・・・ない、です」
そう言った彼は船の甲板を大きく凹ませた'肉球の跡'を見て、溜め息をつく。
「おいおい、マルコ〜!!何してんだよっ!」
「ってかそいつ誰だぁ?!」
「この船に何の用だ!」
ザワザワと周りが騒ぎ出した。無理もない。私は別に白ひげのところへ飛ばしてくれなんて頼んでないのになぁ・・・どういう意図があって飛ばされたかは知らないが、とにかく一刻も早く立ち去るべきだろう。ナマエはそろりと立ち上がると、男に向き直った。
「害を成すつもりは・・・ねぇよな?」
「もちろんです。」
マルコは悩んでいた。どうもこいつからは敵意は全く感じられないし、嘘をついているわけでもない。独特な雰囲気を持つこいつは、なんだか儚げで――どうにも対処に困る。敵意剥き出しの方がやりやすいってのに。
だがそう簡単に気を許してやるつもりもないが、今はそれどころではないのだ。
「・・・白ひげ海賊団の不死鳥マルコさんとお見受けします。改めまして、気まぐれの
「・・・あぁ」
「大変・・・申し訳ないのですが、近くの島まで送って頂けませんか?人がそれなりにいる島ならどこでも構わないのですが・・・」
「・・・・・・敵意もないみたいだし、そうしてやりてェのは山々だが・・・こっちは今それどころではないんでね」
「?島には寄れそうにないですか?」
「あぁ。今おれらが向かっているのはマリンフォード――海軍本部だ」
「・・・・・・・・・え?」
「それでもいいなら送ってやるよぃ」
マルコはそう言うと険しい顔を浮かべた。
この人達、何を言っているんだ?
私はどうやら、とんでもないところに来てしまったらしい。