アズライト



いつまでも甲板にて睨みをきかせているわけにもいかず、マルコはナマエの様子を観察しつつも、騒がしいギャラリーを追い払った。甲板に残ったのは白ひげ海賊団の隊長格、数名のみ。他の船員は船内にて待機とさせた。そしてここ最近の世界の情報をナマエへと話す。

マルコの話によると、白ひげ海賊団2番隊隊長の'ポートガス・D・エース'が海軍に捕まり、公開処刑されることになったこと。またそれを阻止しエースを救出ようと白ひげ達は海軍に戦いを仕掛けようというのだ。
海軍はそれを覚悟の上で、王下七武海を招集した後、白ひげ海賊団を全軍を持って迎え撃つ腹積もりらしい。ナマエは壮大な出来事にマルコの話を黙って聞いていた。
なるほど・・・王下七武海とあれば'あの男'もいるだろうな。こんな歴史的大戦争に行かないという選択肢は彼にはないだろう。
まさか自分の知らぬ間にこんなことが世界で動いていようとは。

ナマエは'男'を思い出し、自然と拳を握りしめてしまった。

「・・・なるほど。とんでもないタイミングで飛ばされてしまったようですね。」

「ほんとだよぃ。ったく・・・くまも面倒なことをしてくれる」

マルコは溜め息をついた。つい先日、戦争に巻き込まれないよう、ナース達を降ろしたところだと言うのに、また厄介事が船に舞い降りてきた。しかも何故だかあの'気まぐれの盗人シーフ'ときたものだ。船は既に海軍本部に向けて動き出しているというのに。

「何故、エースさんは捕まったのですか?'火拳のエース'と言えば、とても強いという噂でしたが・・・」

「・・・おまえに話すことでもねェよぃ。おれ達の喧嘩だ。あまり首を突っ込まねェほうがいい」

「・・・・・・それもそうですね」

マルコは眉間に皺を寄せたまま何かを思案するような顔で、ナマエはそれに何かを察したように押し黙る。さて、どうしたものか。小舟を貸してもらってもこの辺の海域を航海するのには、些か不安要素があり過ぎる。白ひげ海賊団としてはこんな訳の分からない盗人なんか知らないかもしれないが、こちらとしても放り出されるのも困る。

「マルコ、話はついたのかい」

「いや、どうにも・・・解決策が浮かばねぇよぃ」

「まずは親父に報告しねぇとなァ」

「そうだな・・・おい、盗人。着いてこい」

そう言うと隊長達は立ち上がり、顎で来るように促す。ナマエもそれに頷くと素早く立ち上がった。白ひげと言えば、現在のこの広い世界において、海賊の中でも一番海賊王に近いと言われている男。

ナマエはドキドキとする心臓を抑え、助けてもらった魚人達を思い浮かべた。あの人達が常日頃から言っていた、大恩人である'エドワード・ニューゲート'。
彼がこの男達を纏めるボスだというのか。ナマエは自分を警戒しながらも、飄々とし歩みを進める男達にゾクリとした。肌で感じる只者ならぬ空気感に少し震えた。

「そういや、おまえさん・・・ボロボロじゃないか。くまにやられたのかい?」

「え、あ、はい・・・バーソロミュー・くまと戦桃丸という海軍らしき人と交戦しまして・・・その時に、」

質問してきたその人は和服を着こなし、どこか'侍'を思わすような、綺麗な男の人だった。
ナマエはそれに対して苦い顔をした。麦わら達の悲痛な叫びが頭をよぎった。大丈夫だとは思うが・・・少し心配でもある。

「・・・そうか。おれはイゾウって言うんだ。ここでは16番隊を纏めている。よろしくな」

何故だかにこやかに挨拶する様に呆気にとられた。仲良しこよしするつもりはないが・・・?

「変な気ぃ起こさねェって、何となく分かる。親父に会おうとする奴で、そんな顔するのは大体緊張している奴さ」

そしてふっと笑われた。ナマエは自分の顔に手を持っていき、ぺたぺたと触る。どんな顔してた私!?何となく頬は引き攣っている感覚にナマエは恥ずかしさを覚えた。そんなに顔に出ていただろうか。

「おいおい、あまりからかってやるな」

「それは失礼した」

「おまえら・・・うるせェ。ほら、着いたぞぃ」

そうしていつの間にか着いた先には重厚そうな大きな扉。船もでかければ部屋もでかそうだ。ナマエはゴクリと喉を鳴らす。

「盗人、おまえに敵意はないことは分かったが・・・もし、親父に何かしでかしたら・・・おれ達がおまえをぶっ飛ばすからな」

マルコは抑制するようにナマエを再度睨みつけた。それに茶化すこともなく素直に頷くナマエに少し疑問を感じた。何故、こんなにも素直なのか。そんなことしない!と叫ぶ奴や、嘲笑う奴も中には沢山いる。ビビる奴もいる。そんな光景をこの目で山ほど見てきた。
だがナマエは緊張はしているだろうが、ビビることもなく、喚くこともなく、真っ直ぐにマルコをその瞳に写していた。その瞳は深い底なしの陰が見えた気がした。

それに少しゾクリとする。あぁ、こいつは全てを理解している。'受け入れる'ということに慣れている。相手の気持ちを察するのが'上手い'のだろう。最初に感じたこの儚げな雰囲気は、これが原因か。
マルコは――ナマエの見方が少し変わった。


その後、マルコは事情を説明する為、先に中へと入り、白ひげと話をつけた。そしてナマエを部屋の中へと入るように促す。

「入れ」

そして――対面する。

その大きな身体だけでも相手に威圧を伴うそれに、肌にビリビリとくるこの感じ。間違いなく、'王の資質'を持っていた。

「初めまして――エドワード・ニューゲート、白ひげ。ナマエと申します。」

ナマエはまるで騎士のように頭を下げ、片膝をつき、胸に手を添え、白ひげに敬意を払う。その姿に隊長達は少しばかり目を見開く。そこまでする必要はそいつにはないはずなのに。自分の親父との関係性に各々疑問を持ち始めた。

「グラララ・・・話は聞いたぞ、クソガキ。まぁおめェの話は耳にしてたんでなァ・・・」

「私もです、白ひげさん。お会いするのは初めてですね・・・」

「そうだなァ・・・まさか、'人間嫌い'のあいつらがガキを世話してたなんて・・・驚いたモンだ」

「だがおまえが'盗人'をしてるとは思ってもみなかったがなァ」と彼はナマエを見据えた。ナマエはそれに対して、ぐっと眉間に皺を寄せる。

「・・・・・・'海軍'も'海賊'も・・・好きにはなれませんので」

「・・・グラララ、そうか・・・・・・'政府'も'おれ達'も嫌われたモンだ」

彼はそう言うと豪快に笑い飛ばした。