治療が終わったナマエはマルコと共に船内を回っていた。とりあえずまだ海には潜らないから、それまでの間にどうするか決めろとのこと。白ひげは思ったよりも好意的で、ナマエは心底驚いた。今日初めて会ったばかりだが、その懐のデカさというか、偉大さに麦わらの彼が脳裏を掠めた。
ルフィ達は大丈夫であろうか。くまがいくら助けたいとは思ってたとはいえ、どこに飛ばされたかなんて分からない。皆バラバラかもしれないし、運悪く変な場所に落ちてしまっていないだろうか。
もう、自分には関係のないことだろうけど、心配はしてしまう。自分は、まだまだ弱い。弱ければ誰も守れない。眉間に皺が寄った。
「おい・・・おい!盗人、聞いてんのか?」
「え?あ、すみません・・・ボーッとしてました。どうしました?」
「ったく・・・・・・おめェ、麦わらのとこにいたんだよな?」
「え、あ、はい。そうですよ?」
ちょうどその人物達のことについて考えていたため、少したじろいだ。マルコも知っているということは、やはり、彼らは有名人なのだろう。あの'エニエス・ロビー'にて、騒ぎを起こした人達なのだから。彼らの騒がしさを思い出し、心の中でくすりと笑みが溢れた。彼らなら、大丈夫。彼らは強い。
「確か、エースの弟って・・・その麦わらだったよな?」
「え・・・そう、なんですか??」
「なんだ、知らなかったのかよぃ」
ナマエは目を見開いた。あの、二人が・・・兄弟?初めて聞く事実に驚きが隠せない。そうだったのか。'ポートガス・D・エース'には会ったことはないし、ファミリーネームもルフィと違う。ということは、義兄弟か?だが'D'という名は同じ。何かの縁があるのだろうか。
彼、ルフィは人との縁を大事にするタイプだ。自分に素直というか、興味のないやつは本当に興味ないだろうし、自分の友達や仲間には太陽のような笑顔を向け、大切に思っていることだろう。
そんな彼が、大事にしているであろう、兄貴の処刑の話を聞いたら・・・・・・どうする?
そんなの、決まっている。恐らく、助けに行くんだろう。どれだけ危ない橋でも、彼は、自分の信念を、意志を貫くのだ。ぐっと拳を握り締めた。
―――ドンッ!!
大きな音と共に船体が揺れた。急なことにより、足元がふらつく。だがすぐさま強い力に引っ張られ、体勢は崩れることなく地に足をつけることができた。お礼を言おうと顔を上げると、思ったより顔が近かった為、少し頬に赤が差した。
「・・・ぁ、まっマルコさん・・・ありがとう、ございます・・・」
「・・・・・・あぁ」
なんだか気まずい雰囲気にすぐ離れた。彼には先程女と伝えたばかりで、少しの恥ずかしさと慣れていない雰囲気に頭を大きく振った。とりあえず、今の衝撃はなんだったのだろうか。
「マルコさん!!海軍の艦隊23隻を確認しました!!」
「・・・思ったより多いな・・・それくらいの戦力は寄越すか・・・・・・」
ドタバタと船内が慌ただしくなってきたと思ったら、下っ端であろう人物が焦ったようにマルコに口早に状況を伝える。エースの件で海軍は白ひげに喧嘩を売ったのだ。先手を打ってくるのは当たり前であり、白ひげ達の動きを監視したいというのも分かる。だが23隻とは・・・やはり白ひげ海賊団はそれくらい海軍にとっても脅威なのだ。
「海軍におれ達の動きを把握させるわけにはいかねぇ・・・・・・全船、鎮圧だ」
マルコはそう言うとニヤリと笑った。それにナマエはゾクリとする。この状況が当然というように、また自分達の実力も当然というような・・・・・・溢れ出る自信と、力強さがその瞳にメラメラと映し出されていた。
海賊王に近い男と言われている白ひげのクルーは、それだけの実力があるのだ。背中を這うような、感情が昂る感覚を覚えた。
そして騒がしい甲板へ向かうと、そこでは既に戦闘が行われていた。海軍の艦隊を発見した白ひげ海賊団は、先制攻撃を仕掛けたようだった。
「親父が出る程でもなさそうだ。おい、盗人・・・・・・おめェは今はおれの'1番隊預かり'になってんだ。手伝えよぃ?」
「・・・・・・私、これ以上海軍と揉めたくないのですが・・・」
「この船に乗っている以上、今はどうしてもそうなっちまうよぃ。行くぞ」
「・・・・・・仕方ないですね・・・」
ナマエはコキコキと首を鳴らすと、一気に駆け出した。治療してもらったばかりだというのに人使いの荒い人だ。だが、マルコの治療は完璧で、身体がだいぶ軽い。それにふっと笑みを零すと、海軍艦隊の内、1隻へと飛び移った。マルコが驚いたように「ナマエ!」と呼んでおり、あ、今初めて名前呼ばれたなと思うと同時に、麦わら達との初めての邂逅を思い出した。こんなこと、そういえばあったな。
「!!!?おまっ・・・'気まぐれの
「どこぞの大将さんのせいで離れてしまったのですよ・・・・・・今は白ひげ海賊団、1番隊預かりとなっておりますので、お見知り置きを」
ナマエはニヤリと笑うと相手が動く前に懐に入り込み相手の身体に触れた。触れられた相手はガクンと膝をつき、こちらを睨みつけていた。
「おまえっ・・・!関節を奪いやがったな・・・!!おい!こいつを先に捕らえろ!」
「ふふっ。そう簡単に捕まりません、よっ!!」
ナマエはそう言うと、相手の顔面に蹴りを入れる。それにくたばった相手を見ると、次から次に襲い掛かってくる海兵達を返り討ちにした。
「おめェさん、やるね」
ふと背後から声が聞こえたかと思うと、先に船に乗り込んでいたであろうイゾウに声を掛けられた。彼は少しばかりこの状況を楽しんでいるようだった。だが、白ひげ海賊団は決して海兵達の命を奪うことはしなかった。あくまで、'鎮圧'。それ相応の攻撃はあれど、死亡者は0。
ナマエはその状況に、なんだか感情が少し溶けた気がした。
そして、海軍の艦隊23隻は全て、白ひげ海賊団によって鎮圧されたのだった。この事実を元帥センゴクが聞くのは、もう少し先の話だ。