スモーキークォーツ
「改めまして、ナマエと申します。よろしくお願いします。」
ナマエは何故か広々とした甲板にて、白ひげ海賊団に挨拶をしていた。ナマエを見る者の中には好意的なものは少なく、不思議な顔をしている者、嫌悪感を剥き出しにしている者と多数存在した。そしてデジャブ感。
何故、このような状況になっているかと言うと、少し前に遡る。
海軍の艦隊を鎮圧した後、ナマエはマルコと共に白ひげの元へと来ていた。そこにはこの大きな海賊団を纏めあげる隊長格の者が集まっていた。そのピリピリとした空間にナマエは固唾を飲んだ。一体なんだというのか。少し動き過ぎた為なのか、傷口がドクドクと音を立てているような気がした。
「おめェら、状況が変わった。今すぐ船のコーティングを済ませ、海に潜り、海軍本部へ向かう」
「どういうことだ?」
「コーティングはもう少し先の話じゃなかったか?」
「・・・もしかしたら、処刑の時間が早まるかもしれねェ・・・それを見越してのことだ」
なるほど。確かに海賊に対して仁義を通すこともないし、事を済ませてしまえば、手出しの使用がない。今の元帥は頭のキレる男だ。今回のことについては悩みに悩んだ挙句のことだろうし、それ相応の対応はしてくるだろう。様々な考えを持っていてもおかしくない。
「それでだ・・・ナマエ、おめェ・・・行くとこねェなら、おれ達と・・・来ないか?」
周りはその提案に動揺が隠せないでいた。それはナマエも同じくで目を見開いて彼を見つめた。何を言っているんだ彼は。いくらなんでもそれは――
ナマエが何かを発する前に周りが騒ぎ出した。
「どういうことだ!親父っ!」
「そうだな・・・こんな大事な時じゃなくてもいいはずだ」
「ってか・・・こいつと、親父との関係は?」
最もな質問が白ひげへと飛ぶ。それは他の隊長達も気になっていたところで、唯一マルコは察していたが詳細は知らない。援護をすることもなく黙って聞いていた。
ナマエはちらりと周りを見た後、白ひげへと視線を移した。この人との関係自体は、特にない。だが、自分の恩人である人の、'恩人'で、海賊は好きではないが、この人のことを尊敬しているのは確かで。
もし今回のエース奪還の役に自分が立てるのならば、恩返しとまではいかないが力添えしたいのはナマエの本望である。ナマエは動揺していた気持ちを切り替え、すぅと息を吸うとその場へと跪き、胸に手を当てた。
「私と白ひげさんは個人的な関係はありません。ただ人との繋がりなるところで恩恵を受けました・・・その恩返しとして、エースさん奪還をお手伝いできればと思います。
私はここを一人で航海するのには少々頼りないですし、少しばかり・・・皆様と共にいさせて頂ければと。」
そう言い放ったナマエは白ひげを真っ直ぐ見つめていた。エース奪還の為には海軍本部へと行かなければいけない。それならば、'あの男'もいるわけで。少し早いかもしれないが、白ひげ海賊団と共にいるならば'私の目的'の第一段階が踏めるかもしれない。利用という形になってしまうかもしれないが、白ひげも本気で私を船に乗せる気はないだろうし。
ナマエの瞳には陰がチラついた。
「おいおい・・・おめェ戦争に行くんだぞ?」
「'4億'といってもどうだか・・・」
「・・・なるほど。実力が気になるということでしたら、お相手致しましょうか?」
ナマエはそういうと好戦的な笑みを浮かべる。確かにナマエはどことなく線が細く、パッと見、頼りない少年といった風貌だろうか。そう言われ慣れているとはいえ、ナマエは売られた喧嘩は買う主義だ。ピリッとした空気が部屋を震わせた。
「おまえ・・・・・・舐めてっと痛い目見るぞ」
「こちらのセリフでは?」
バチバチとナマエと火花を散らすのは、小柄だがどこか王子様の雰囲気を漂わせる、12番隊隊長のハルタ。それに周りは溜め息をついた。どちらも見た目のわりに随分と血の気溢れるらしい。
そして、甲板へと移動すると、冒頭へと至る。
ずっと黙っていた白ひげの脳内には以前、交わされた'約束'が思い出されていた。
『どうした'ジンベエ'・・・こんなところまでやって来て』
『親父さん・・・・・・最近賞金首になった、ナマエという子を、知っておるか』
『あぁ・・・各地で'盗み'を働くクソガキだろう?』
『わしらは、あの子に'助けられた'んじゃ。もし、この広い海であの子に会うことがあれば――助けてやってほしい』
これは会話の一部に過ぎないが、その時聞かされた'彼女'の過去について白ひげは苦い思いを抱いたのを覚えている。彼女もまた、時代に巻き込まれた罪なき人間だ。白ひげはここにナマエが落ちたのも何か目に見えないもので繋がっているのだろうかと、空を仰いだ。
『あの子は――自ら盗みを働くような子ではない。あの子の'裏に立つ人間'がおる。』
そう聞かされていた白ひげは、自分の息子と戦闘するナマエを受け入れようとしていた。思い入れもクソもないが、あの仁義を重きに置き、人を警戒するジンベエが頭を下げる時は決まって相手のことを思っている時だ。そんな彼の想いと、実際に見てみて分かったことがある。
'彼女'はとても'危うい'のだ。何か事があれば、直ぐに堕ちてしまいそうになる雰囲気に、どこかへと消えてしまいそうな儚げな陰。
「全く・・・厄介なクソガキだ」
そう笑っている白ひげには、陰はなかった。