アメトリン





――海軍本部、マリンフォード

そこには並々ならぬ緊張感が漂っていた。白ひげとの戦争前の静けさから一変、センゴク元帥が放ったその一言に世界は注目していた。

「お前の父親は!!!
'海賊王'ゴールド・ロジャーだ!!!!」

電伝虫を通したその息苦しそうな声は、世界に衝撃を与えた。ザワザワとどよめくマリンフォード内にセンゴクは、エースは白ひげに守られていたこと、その血を途絶えさせる為には白ひげとの全面戦争になろうとも、今日この場でエースを処刑しなければいけないということを言い放つ。エースはそれに息を呑んだ。
自分は、やはり、そういう存在なのか?
生きてちゃいけないのか?
小さい頃から隠してきた'あいつ'の息子という事実を、受け入れなければいけないのか。

「センゴク元帥!!報告します!!'正義の門'が誰の指示もなく開いています!!!動力室とは連絡もつかず・・・!!!」

「何だと!?」

周りは一気に緊張感が高まった。最初にセンゴクが視界に入れたのは海賊船の大艦隊、白ひげの傘下達。どこからもなく現れた彼らに、海軍は狼狽えるも周りに目を配る。
どこだ、'本命'はどこからやってくるんだ。

――ゴポッ――ゴボゴボ

耳が震わせるのは、水音。まさか、まさか。ぐんぐんと高まる緊張感と共に現れたのは、正しく――

「'モビーディック号'が来たァ〜〜〜
!!!!」

「'白ひげ'・・・!!!」

「グララララ・・・何十年ぶりだ?センゴク・・・おれの愛する息子は無事なんだろうな・・・・・・!!!!!
ちょっと待ってな・・・・・・エース!!!」

「オヤジィ!!!!」


ただ一人の'父親'と認めているその人物は堂々たる風格で、エースを見据えていた。遂に始まるこの大戦争に誰が終止符を打つのか――まだ誰も知らない。


そして、誰かが息を呑んだ時、白ひげは空気を割るようにして、拳を突き立てた。それはバキバキと唸るような音を上げ、ヒビが空中に刻まれる。
エースはその様子に自分と、'彼ら'との日々を思い出していた。出会いから、現在に至るまで、彼らは自分を追い出そうとも、殺そうともしなかった。
白ひげは自分が'あいつ'の息子と分かっても、
豪快に笑い飛ばした。なのになのに――

「何で見捨ててくれなかったんだよォ!!!おれの身勝手でこうなっちまったのに・・・・・・!!!」

「いや・・・おれは行けと言ったハズだぜ息子よ」

「・・・・・・!!?ウソつけ・・・!!!バカ言ってんじゃねェよ!!!あんたがあの時止めたのにおれは・・・」

「おれは行けと言った――そうだろマルコ」

「ああ、おれも聞いてたよい!!とんだ苦労かけちまったなァエース!!この海じゃ誰でも知ってるハズだ」

マルコは大きく息を吸うと、

「おれ達の仲間に手を出せば一体どうなるかって事くらいなァ!!!」

その声を合図に周りからは野太い声が飛び交う。ビリビリと伝わる殺気に加え、先程白ひげが呼び寄せた、大きな振動が、辺りを包み込んだ。

「勢力で上回ろうが勝ちとタカをくくるなよ!!最期を迎えるのは我々かもしれんのだ・・・・・・あの男は世界を滅ぼす力を持っているんだ!!!」

センゴクの大きな声と共に、現れた巨大な'波'。今ここに、歴史に名を残す戦争の火蓋が切って落とされた――




そして、モビーディック号船内の奥からコツコツと響く足音。コキリと首を鳴らす様はこの場には似つかわしくないのんびりとした動作だった。だが、その瞳に映るドロドロと蠢く陰はギラりと獲物を狙うかのような目だった。ああ、やっと――やっと'あの男'を葬れるかもしれない。
その足音は白ひげの後ろへと控えている隊長達に並んだ。

「おまえ・・・やっと起きたのかよぃ」

「こんな時に寝てんじゃねェよ!」

「出遅れんなこのチビ!」

「・・・うるさいですよ。昨日あれだけ相手したんですから疲れるのも当然です」

はぁと大きく溜め息をつくと、既に広場に現れてる巨大な波を見て、目を見開いた。やばい、本当に出遅れてしまったみたいだ。たらりと冷や汗を流すも、思いの他寝た為、体力は大きく回復していた。

「ふっ・・・そりゃああの後、他の奴らとも手合わせしたからねぇ」

「あなたもその一人ですよ、イゾウさん」

「おい、クソガキ・・・準備は出来てんだろうなァ?」

白ひげは自分の背後にいるであろう、独特な空気を纏った小柄な人物に声をかけた。その人物は気を引き締め直したかのような面持ちでニヤリと不敵な笑みをこぼしてみせた。

「彼らの全てのものを、盗んでみせましょう」



津波が広場を飲み込もうとする前に、パキパキと音を立て、その波は凍りついた。'氷河時代アイスエイジ'が再び使えるようになったのは最近で、青雉は少しばかり嫌な予感がしていた。そう、確かにあの子に'盗まれていた'技だったのだ。こんな時にそれを思い出したのは、何かの予兆だろうか。
青雉はその勢いのまま白ひげへと攻撃を仕掛けた。

「'両棘矛パルチザン'!!!」

「・・・Reject」

凛とした声は確かに聞き覚えのある声で――青雉は目を疑った。瞳は揺らりと陰を灯し、白ひげを庇うようにして立つその小さな人物に。青雉は突然返された自分の技を食らい、パキりと自身も割れて下へと落ちてしまうが、そこは自然系ロギア。広場の海場も凍らせるとその場から復活する。

「おいおい、まじかよ・・・なーんで君がここにいるのかな・・・・・・」

ぼそりと呟き、見上げた船の先には不敵な笑みを浮かべている人がいた。

「戻ったと思いましたが・・・使えるようで何よりです」

「・・・・・・ナマエチャン」

青雉は気だるげにセンゴクの方をチラりと見た。これは、帰ったらドヤされるかもしれない、と。


「センゴク元帥!ご報告です!!今しがた、青雉大将の攻撃を止めたのは!あの――気まぐれの'盗人シーフ'、ナマエ!とのことです!!」

「・・・!?!な、に・・・!何故こんなところに盗人がいるんだ!!」

何故'そちら側'についているんだと言いたげな顔で、センゴクはギリッと奥歯を噛み締めた。'彼女'がいるというのは些か分が悪い。だが彼女は必ず――

「ナマエは、必ず生け捕りにしろッ」

そう、ナマエの手配書には、'ONLY ALIVE'という記載が書かれていた。