サングラスの中にある瞳は何を映しているのか読み取れない。ナマエは息を整えながら悔しそうに唇を嚙み締める。
「なぜ、とどめを刺さない・・・っ!おまえは・・・!!」
なぜだろう、凄く涙が出る。
苦しくて、しんどくて、この男を殺したいのに―――
「…おれは、」
何かを言いかけるも彼は口を閉ざし、ナマエの上から退く。
「おい!
白ひげの家族の一人、アトモスが追いついたのか駆け寄ってくる。
ナマエは殴られたお腹を押さえがら上体を起こし、ドフラミンゴを見つめる。だが、彼の真意がイマイチ感じ取れずにいた。ふぅと落ち着くように息を吐くと、アトモスに声をかける。
「・・・・・・アトモスさん、大丈夫で、す。それよりここはッ―――」
「フッフッフ・・・よぉ、弔い合戦でもするか?あの'マヌケな巨人野郎'の!フッフッフ!!!」
「何!?おまえ、さっきから何がおかしいドフラミンゴ!!!」
ドフラミンゴはナマエの声を遮るようにアトモスを挑発する。今は彼女の声を聞くだけでイライラして仕方ない、というように。
白ひげの「オーズを踏み越えて進めェ!!!」という勇ましい声が辺りに響いた。
「フッフッフッフッ!!何がおかしいかって⁉この!!時代の真ん中にいる感じさ・・・フッフッフ!!今この場所こそが"中立"だ!!13番隊隊長ーーー水牛アトモス!!」
ドフラミンゴは不適に笑うと指をくいっとアトモスに向けて動かす。アトモスも突然の動きで油断したのか、その'糸'に捕まり、周りにいた仲間をなぎ倒していく。
ナマエもアトモスの攻撃に身をかわしながらドフラミンゴに追撃しようとするも、操られた人に阻まれる。
ドフラミンゴは大きく息を吸うと面白そうに、まるで語り部のように手を広げた。
「海賊が悪!!?海軍が正義!!?そんなものはいくらでも塗り替えられて来た…!!!"平和"を知らねェ
正義は勝つって⁉そりゃあそうだろーーー勝者だけが正義だ!!!!」
ナマエは黙ってその言葉を聞くしかなかった。ドフラミンゴの生い立ちも、何があったのかも、全て聞いて見てきた。彼の奥底にある強い憎しみと、彼の中にある想い。ぐっと胸が潰れそうに苦しかった。
「おれはいつでもお前を殺せるんだ、ナマエ。せいぜい足掻いて、踏みつぶされ、時代に揉まれ、そして―――おれの前で死ね」
そう静かに言い放った彼はナマエの前からいなくなった。白ひげの掛け声と共に中央へ集まってくる傘下達を横目に、ナマエは呆然と立ち尽くす。この、心に渦巻くどうしようもない気持ちを落ち着かせるので精一杯だった。
悔しい、憎い、殺したい―――でも、どうして、なんで私はあいつを'殺せない'の。
「あーあ…ルフィさんに会いたい、かも」
ナマエは乾いた笑みをこぼした。
少しすると海軍の動きが些か'変'だと感じ取る。ここは戦場、気を抜いている暇なんてないのだ。何故ドフラミンゴが勝手な行動をした私を殺さなかったのか分からないが、彼に感じていたどす黒い気持ちが少し、ほんの少しだけ静まった気がした。
ナマエは気合いを入れるように両頬をバチンと叩くと、襲い掛かってくる敵の懐に入り込み、能力で攻撃を跳ね返していく。処刑台に目を向けると何やらガープとセンゴクが話しているが、喧騒が大きく、見聞色の覇気を使用してもこの広場にいる人の数は計り知れないため、上手く聞こえない。
ただガープは悲しそうに悔しそうに涙を流していた。
そうか、彼もまたエースさんの'家族'なんだ。
早く処刑台に行かなければ・・・!
ナマエは走る速度を上げる。だがふと耳に届く、不吉な知らせ。
「エースさんの処刑を予定を無視して執行するって・・・!!!そんな事したら・・・!!!」
うそ、でしょ。ナマエはギリギリと歯を食いしばった。ムカつくけど、さすが智将センゴクといったところか。これは白ひげさんに伝えた方がいいのか、いや、頭のいい人だ。恐らく彼も気づいているだろう。
「事前に分かっただけでも充分!」
どこかの海兵に感謝しながら、思い浮かんだのは麦わら帽子の彼。必ず、あなたの大切な人は助けるよ―――ルフィさん。
集中力を更に上げた時、遠くから声が聞こえた。
「あああああああ・・・あ!おれゴムだから大丈夫だ!!!」
ナマエは足を止め、空を見上げて笑みをこぼした。
「本当に、会えた」