アンバー



「ナマエ、気になっているならあいつのところ行けよぃ。」

「・・・別に、ルフィさんはそう簡単にやられるようなタマじゃありませんし。」

私は今も周りの人に助けてもらいながら、真っ直ぐ、本当に真っ直ぐ進んでいく彼を見て、目を細めた。

「おれァ別に麦わらのことなんて一言も言ってねェよぃ?」

「・・・ちっ・・・このクソ鳥が・・・」

「おーおー、口の悪ィこった」

「てめェら喋ってねェでさっさと行って来い!」

何やら真横で赤っ鼻の野郎がギャーギャー騒いでいるのを一瞥したあと、再び戦場に赴いた。白ひげが言うには先の盗聴の内容は罠かもしれないと言っていた。センゴクはそんな盗聴が漏れるような、つまらないヘマはしない、と。
確かにかなり慎重な性格の彼のことだ。それもきっと計算してやっていることだろう。

「全く、怖い人だよ」

「よォ、盗人よ。戦闘中に考え事かい?」

「ビスタさん・・・!」

不意に声をかけられ横を見ると、立派に整えられている髭を携え、華麗に敵をいなす白ひげ海賊団5番隊隊長、'花剣のビスタ'が笑みを浮かべていた。こんな戦場でもどこか風格のある白ひげの隊長たちは逞しく、それでいてこんなにも自由に戦っているのは、あの白ひげがいるからなのだろうか。もちろん傍にいても油断や隙は感じられない。

「はぁ、あなた達も怖い人ですね・・・」

「何のことだ?」

「いいえ、別に。ところで・・・」

ナマエは眉を下げて笑うと、一旦息を吞み込む。そして途端に'盗人'の顔になると見えてきた'大切な人'に襲い掛かる敵を指差して、不敵に笑った。

「あの人、止めていただけません?」

ビスタはナマエの指差す方向へと顔を向けると、かの有名な'鷹の目'がいた。ナマエをちらりと見やる。こいつもうちの隊長格とほぼ互角にやる奴だが、確かに、剣士となるとまた別だ。剣士には剣士の戦い方があるし、何より少し手合わせ願いたいとも思っていたのだ。ビスタもナマエにつられるようにニヤリと笑うと、どこからかうちの不死鳥の声も聞こえてきた。人使いが荒いが、まぁここは———

「任せとけ!!」

2人は顔を見合わせると一気に足を踏み込んだ。





—————少し前

バーソロミュー・くまが人間兵器へと改造されていったことを聞かされるルフィとイワンコフ。
ルフィはかつて知り合いだったのか、くまの猛攻に憤慨している様子のイワンコフを見ながら、くまに飛ばされる前に言われたことを思い出していた。


『———もう二度と会うことはない・・・ナマエを頼むぞ、'麦わらのルフィ'。さらばだ』

何だって、皆、そんなにナマエのことを気にするのか。ナマエには何があるというのか。普段なら関係ねェと吹き飛ばせるのに、知りたいと思う気持ちも、このモヤモヤとした不安や衝動も、ルフィには何一つ分からなかった。
ナマエに会えればまた変わるだろうか。

イワンコフがくまの攻撃を一手に引き受けてくれたと同時に、その仲間達と共に前へ進もうとすると、またあのピンクのやつが姿を現した。

「待て、麦わら」

先程とは打って変わった、落ち着いた声に自然と足が止まってしまった。にやついた嫌な笑みを浮かべているわけでも、からかったような笑い声もない。淡々とした声で言葉を紡ぐ。
イワンコフの仲間は何やら騒いでいるが、何も聞こえないくらい、2人の世界に入り込んだ。

「・・・ナマエがお前に扱えるのか?」

「何だよ、おめェもナマエの知り合いか?」

「おれの質問に答えろ」

ルフィはその態度に少しムッとする。あのクマが酷い奴にも似たようなことを言われたが、それとは違う、肌感で分かる、嫌な感じだ。

「ナマエは'モノ'じゃねェ、おれの・・・友達だ」

少し言い淀む。仲間だと、胸を張って言える関係では、まだない。ナマエにああいった手前、ナマエ自らの意思でないと意味がないのだ。

「フッフッフッ・・・そんな薄っぺらい情にあいつは惹かれちまったのか」

「おめェ、さっきから何言ってんだ」

「いずれナマエは返してもらうが、今はお前に貸してやるよ麦わら。」

「だからモノじゃねェって——」

緊迫した空気が切れたのか、一気に周りの喧騒が耳に入ってくる。そいつはふらっとどこかへ行ってしまったが、追いかける気はおきなかった。その背中を見届けたルフィはまた真っ直ぐ先を見据えた。今は一刻も早くエースを助けたい。その一心で歩を進めるが、だがそれには目の前に迫る、鷹の目を退けなければならない。

「兄から遠のく一方だぞ!!!」

「くそォーーー!!」

途中、バギーを身代わりに傍から見たらふざけた攻防をするも、ミホークの猛攻に防戦一方のルフィ。反撃の攻撃をしようにも中々上手くいかない。ミホークが剣を構え、先程も見せた岩を切るような剣技を放つ瞬間、何者かが横切る。

「ビスタ!!援護しろよぃ!!」

「任せとけ!!」

———————ギィィン

剣と剣がぶつかる独特の金属音が鳴り響く。ぶつかった瞬間に吹き荒れる土煙が攻撃の威力を物語っていた。ルフィは攻撃を防いでくれた知らない人物に驚きはするものの、チャンスと言わんばかりにミホークの間合いから抜け出す。

「やった!!!抜けた!!あのおっさん誰だ!?ありがてェ!!」

「・・・おっさんじゃなくて、白ひげさんのところの'ビスタ'さんですよ、ルフィさん」

落ち着きのある、凛とした声が聞こえる。ルフィはここにいるはずないと思うも、声が聞こえた方へ顔を向ける。

「ナマエ・・・!」

「お久しぶりです?ルフィさん」

そこには少し穏やかな笑みを浮かべて、泣きそうな顔をしているナマエがいた。