零れる 爆豪side


※爆豪目線



「じゃあ爆豪くん戸締りしっかりしてね」
「…」

「何かあったら電話してね。出れるようにしていくから」
「……」

「ご飯ちゃんと食べてね。二次会には行かないから」
「………」

「それから。お土産何がいい?」
「…っうるせぇ!!さっさと行け!」








今日は会社での飲み会らしい。
俺が来てから初めて夜居ないことに心配になっているはる。
ガキじゃあるまいしそれぐらい俺にだって出来る。舐めてんのかこの女。
中々玄関から動かないこいつに痺れを切らして追い出そうとする。
寂しそうに出ていこうとするその背中を見てつい声をかけてしまう。










「……あんま飲みすぎんなよ」
「!!うん!行ってきます!」










そう言うと笑顔で玄関から出ていく。どんだけ嬉しいんだ。
鍵をかけてこつこつと外に出ていく音が聞こえる。行ったか。
1度仕事に行って飲み会先がすぐ近くで時間があるからと家に帰ってきてから行ったこともあり外は日が落ちてきている。










「……」











静かだ。
普段からうるさいやつが居ないとこうも静かなのか。
時計を見るとまだ18時。寝るにも眠くはねーし腹は減ってねぇ。
こんな時にすることと言えば。











「……外行くか」










個性を使って訓練しようにも使うなとはるからも言われている。あいつの言う通りにするのも癪だがここでは個性は存在しないとするなら一般人を装うのが妥当だろう。
出来ることと言えばランニングと腹筋と体の運動くらいだ。体を怠けさせてアイツらに遅れをとるのだけはまっぴらごめんだ。
上着を着て靴を履き俺も外に出ようと準備をする。
これくらいの運動ならはるが居ない日中はいつもやっていることだ。
言われた通りに鍵をかけてからランニングへと思いつく限り黙々と体を動かした。















*













「…っ、はぁ」










家に帰ってきて腹筋背筋スクワットといつものメニュー通りこなすと気がつけば22時すぎを回っている。
二次会には行かないとは言っていたが会社の付き合いだ。きっと遅くなるだろ。

べたべたになった体を洗い流そうと思い溜めていた湯を止めようと風呂場に向かい服を脱ぐ。
いつの間にかここでの生活も慣れてきて何がどこにあるかだなんて覚えてしまっている。
風呂場に入り湯を止め体を洗い流すと自分の家とは違うシャンプーやボディーソープの匂いが鼻を掠める。嫌ではない。そう思ってしまう匂いだ。
シャワーの水を止めて湯船に体をつける。
動いて疲れた体には気持ちいくらいだ。洗い流した頭からちゃぽんと水滴が落ち響く。










「……静かだな」









そりゃ誰も居ないからそうかと口元が緩む。
ここにきてそろそろ1ヶ月は経つか。
依然として状況に進展はないがここでの暮らしも悪くはない。だが俺はヒーローにならなきゃいけない。No.1ヒーローに。帰らないとわかっているのにはると離れることを考えると何故か胸が痛む。クソわけわかんねぇ。

あまりにも反応がよくからかいがいのある奴にちょっかいをついかけてしまうが次の日にはケロッと前の日に起きたことをなかったことにされる。
それに俺の事を弟だの友達だの訳の分からない言葉で片付けるあいつを見ていると苛つく。
なんでだ、じゃあ俺はあいつにどう言って欲しいんだ。
また答えのわからないことに苛立ちが募る。
そんな苛立ちを捨て去るように湯船から立ち上がり体を洗い流してから風呂場からでる。
体を拭いてから服を着て再びリビングへと向かうと外からこつこつと足音と誰かの話し声が聞こえる。







「……もうここでいいですよ」
「大丈夫?はるさんってお酒弱かったんだね」









はると……男との声だ。
確認しようと玄関に近づくとよく会話が聞こえてきた。
はるが男といるのだとわかるとふつふつと黒い感情が出てくる。







「あれ、家の電気着いてるんだね」
「あ、あぁ!消し忘れちゃったのかも。もう大丈夫ですよありがとうございます」







はるがドアノブに手をかけた音が聞こえた。






「っ、待って!はるさん。よかったら連絡先教えてくれない?」










ぷつり。
我慢が出来なかった。こいつに近づくなと自分を止められなかった。
ガチャっとドアを開けた先には驚いた顔をしているはるとその男。
はるの手を掴むと行くぞと声をかけて家の中に連れる。男の方へと去り際に目を向けると状況に着いていけてないのか慌てている。ざまぁねーな。ギロっといつもの様に睨みつけると相手は怯む。








「わっ、爆豪くん!す、すみません。お先失礼します」









丁寧に男に向かってはるは言う。
ドアが締まり家の中に入るとはるは未だに何が起きたんだと驚いている。







「そ、そうだ。ただいま爆豪くん」






へにゃりといつものより弱々しく笑う。
酒を飲んだのかほんのり頬が赤い。






「もー、爆豪くんびっくりしたよ。明日ちゃんと説明しなきゃ…お土産買ってきたんだよ。一緒に食べる?」








言いながら靴を脱いで家へと上がってゆくはる。
…説明ってなんだよ。また俺の事を弟だの友達だので片付けんのか。そう考えるともやもやとした気持ちが晴れない。






「?爆豪くん?早く中おいでよ。こっちこっち」








ソファに座ったはるは自分の横に座れとぽんぽんと叩いて指定する。
……そうゆうところがよ。
こいつには危機感とうものがないのだろうか。さっきだって職場の奴だとしても名前呼びで酔ったやつに帰り際に連絡先交換なんざ下心があるとしか思えない。
そんなやつと夜道に2人とは何をされたものかわかりやしない。







「?爆豪くん?」








きょとんとするはるを見て落ち着こうと頭をがしがし掻きながら靴を脱いで部屋に入る。
未だにソファの横を「ん」と指定するこいつにどうすりゃ理解すンだといらついてしまう。仕方なくドカッと隣に座ってやると満足したのか満面の笑みで俺を見る。








「ふふ、爆豪くんもしかして妬いてる?」
「は」








んなわけねーだろ。確かにイラつきはするがよりによってこいつにか。
思わぬ言葉に拍子抜けした声が出てしまう。







「あはは、ないよね」
「っ、んなわけあるか!調子乗んな!!酔っ払い野郎が」
「ひどい」








けらけら笑うはるに酔っているなこいつと察する。








「つーか、まじ近寄んな。酒臭ぇ」
「えー、いいじゃん」
「あのなぁ……」

「あ、そうだ。爆豪くん先に言っとくけど怒らないでね」
「あ?」

「あー、やっぱり気持ちい!
ふさふさだー!」









そう言うと人の髪を触ったり撫でたりとしてくる。
確かに前置きをしてから触ってきたが癇に障る。アホか。本当にクソ女だ。酔っ払いの絡みがクソめんどくせぇ。









「……おい」









これ以上はやらせまいとはるの腕を掴む。






「…怒っちゃった?」

「調子乗んなクソ女」
「だから最初に怒らないでって言ったのに」
「んなもん俺の癇に障ればなしだわ」
「理不尽!」
「っは、なんとでも言え」




ちぇーと口を尖らせる。ガキか。





「つーか、お前ももう少し警戒しろ」
「?なにが」
「…さっきの男。お前に下心あったろ」
「ええ、まさか。そんなことないよ」





あははと流すはるにまだ言うのかと眉が動く。
あれだけ俺が仕掛けておいて何も感じねーのかこの女は。掴んでた腕に力が入る。




「っ、爆豪くん痛いよ」
「はぁ……」

「なんで溜息つくのさ」
「男舐めてっと痛い目見んぞ」

「大丈夫だよ。そんな人とは縁がないよ」

「……俺もか?」

「………うん。爆豪くんはしない」







酔っているはずなのに俺を真っ直ぐ見るはる。
真っ直ぐすぎんだよ。見てて否定されている気がして苦しくなる。今まで溜めていたものが抑えきれなくなってゆく。









「……っ、俺だって男だ」
「っ、爆豪く」







手を引っ張って引き寄せてはると唇を交わす。
驚いたはるはもちろん俺と距離を取ろうとするがそうは行かない。女が男の力に叶うはずがねぇ。
逃がさないと言わんばかりにはるを頭を片手で抑え角度を変えながら何度も唇を交わしソファにはるを押し倒す。

別にこいつとどうにかなりたいと思った訳でもない。ただ俺は男だ。弟でも友達でもない。
俺はこいつに男として見て欲しい、いつしかそう思うようになってきた。

…そうか、俺はこいつのこと。

そう気づいて答えを得た俺はそれと同時にきっとこの行為をやめたら何かが終わるんだと悟ってしまう。それでも何も知らない。分かろうともしないこいつに苛立つ。俺の気持ちも知らないこいつに。








「ん、っふ、爆豪く、ん」
「…っ」
「んんっ」








はるの力が抜けてゆく。部屋にははるの声とソファが軋む音が聞こえる。






「待…っだめ」






さっきまで緩んでいた力に再び力が入る。
はるは俺から顔を背け横を向けて行為を辞めさせた。





「だめ」
「…っ」
「だめだよ爆豪くん」








はるの頬に涙が伝う。それでも真っ直ぐ俺を見る目は変わらない。
自分がしたことに。終わったことに。受け入れてもらえなかったことに俺の頭の中はぐちゃぐちゃだ。









「っ、俺は!!」








その続きを言おうとした瞬間だったはるに抱きしめられ言えなかった。
…いや、言わせないようにわざとだこの女。
俺を抱きしめるこいつの腕は震えている。







「……爆豪くんはいつか帰らなきゃなんだよ」








その言葉にどくりと苦しくなる。
確かに俺はここで過ごして行く人間ではない。
ただ俺がここに来れたようにどうにかできる方法があるはずだ。可能性が無いわけではない。
いずれ帰るのなら残された時間を俺はこいつと。








「…それでも時間があるなら俺はお前と」
「そ、んなの、ずるいよ」





確かにずるいのかもしれない。
それでも俺にはどっちかを諦めるなんてことは絶対にしない。
ヒーローも。はるも。だからな、はる。









「……俺は諦めねーぞ」






その言葉ははるにどう聞こえたのかはわからない。
俺を抱きしめる力が強くなったはるの腕に応えるように俺達は暫く抱きしめ合った。











《零れる》