02

「あの、ねぇ、近いって」



「なにが?」

「分かっててやってるでしょ!?」


いきなり何を言うかと思えばじりじりと悟は私に詰め寄ってくる。サングラスはかけてても顔がマジに見えるのは気のせいか。まるで獲物を捕えたかのようにギラギラと私を捕らえる。
逃げ場を失った私の後ろにはついに壁が背中に付いてしまい逃げようも出来ない。悟も壁に手をつけてまるで逃がさんと言わんばかりだ。




「…そんなに俺のこと嫌い?」


「いや、悟も好きの部類だけど」

「へぇ、俺もなまえが好きだよ。両思いだね」
「っへ、それなんか違う」

「付き合おっか」
「いやいやいや」



そもそも五条悟が私なんか好きになる要素が何も無いのだ。本当にこの男の考えがわからない。ただの同級生。クラスメイトなだけなのに。



「じゃー、試しでもいいよ。お試し1ヶ月」
「は、」
「その間にマジにさせるから」
「待って、話が飛躍しすぎててわからないんだけど」
「待たない。これでも我慢してきた方」
「我慢??てか、とりあえず離れてよ」
「こうでもしなきゃ逃げるだろーが」



整った顔がぐいっと近づく。いつもに無い至近距離だ。こんなに近ければ平然を装うこともできない。ドキドキと顔を逸らしていると耳元に悟が近づいてくる。




「ねぇ、なまえ」




ーー逃がさないから。




ぞわり。

悟の声が私の耳に囁く。電流が走るようなこの感覚につい戸惑う。これが夢であってほしいと思うが目の前にいるこの男が現実だと教えられる。満足気に笑う彼の笑みと余裕のなくなる自分がいて嫌になる。完全にこの男のペースにハマってしまった、そんな気がした。









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